惚れさせゲーム
○学校・教室(朝)
紗菜は幼い頃からの自分と、翼との関わりを回想した

(回想)

幼稚園の頃

幼稚園時代のことは、あまりよく覚えていない。小さな頃の記憶は、ぼんやりとした風景と、色彩の洪水の中に埋もれている。しかし、少しだけ覚えているのは、あの頃の翼のことだ。

翼は、あのころから少し目立ちたがり屋で、いつも他の子たちと一緒に遊んでいた。ふざけたり、はしゃいだり、そんな姿が印象的だった。みんなが集まって遊ぶときも、他の男の子と一緒に、何かと大きな声で笑っていた。でも、その笑顔の裏には、どこか隠れた優しさがあったように思う。

紗菜は当時、そんな彼を「ただのお調子者」としか思っていなかった。自分もあまり人と深く関わろうとしないタイプだったし、そんな翼の騒がしい性格が苦手だった。人の輪に入るのが億劫だったり、静かに一人で過ごすことが多かった紗菜は、翼が目立とうとするたびに少しだけ心の中で避けていた。だから、彼がどんなに周りに好かれていても、紗菜は特に気にすることはなかった。

でも、ある日、ふとしたことで、翼が他の子を助けているのを見かけた。その時、彼が困っている女の子に優しく手を差し伸べているのを目にした瞬間、紗菜の心に小さな変化があった。あんなにふざけてばかりいる彼に、こんな面があったんだ、と驚いた。しかし、その時も紗菜は心の中でそれをすぐに消し去った。

「どうせ、ただの気まぐれでしょ」と。

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小学校の頃

小学校に入ると、今度はその「どうでもいい」感覚が強くなった。翼は相変わらず、クラスの中心で、みんなの注目を浴びる存在だった。明るくて、少しおちゃらけたところもあったけれど、周囲の子たちは彼に夢中で、時折、紗菜の耳にも「翼くんがかっこいい」とか「面白い」といった声が聞こえてきた。それを聞くたびに、紗菜は少しだけ冷めた目で見ていた。

自分にとって、そんなことはどうでもよかった。紗菜はただ、学校で与えられる役目をこなすことに精一杯だった。勉強や自分の興味を追いかけることで、他の子たちとの関わりを避けることができたし、翼が周りでふざけている姿も、冷めた目で見守るだけだった。

でも、クラスの中で、ある日突然、翼が自分に話しかけてきたことがあった。特に仲良くもなかったのに、なぜか彼は突然、「紗菜、これ一緒にやらない?」と、ある遊びを提案してきた。最初は驚いたし、正直、面倒だと思ったけれど、彼の目を見ているうちに、なんだか断れなくなってしまった。

その時の会話は、結局その一回だけだったけれど、翼が何気なく言った「みんなと一緒にやるの楽しいよね」という言葉が、紗菜の心に少しだけ残った。それは、「みんな」と言っても、実際には彼一人がいつもリーダーのように振る舞っているのだけど、その言葉に含まれた温かさが、初めて翼の一面として感じられた。

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中学校の頃

そして中学校に進学すると、紗菜の心の中に少しずつ変化が訪れた。最初は、翼が相変わらず目立つ存在で、周りの女子たちがうるさいほど彼に注目していた。しかし、時間が経つにつれて、紗菜は少しずつ彼に対する意識が変わっていった。

クラスの活動で、翼はやっぱり目立つ存在だった。いつもどこかで騒いでいたり、みんなの前で冗談を言ったり、さりげなく人を笑わせるのが得意だった。だが、その一方で、紗菜は次第に彼が他の人を思いやる姿や、真剣に取り組む姿を見るようになった。体育の授業で、全力でプレイする翼の姿に、思わず見とれてしまったことがあった。彼が仲間を励まし、共に助け合いながらチームワークを大切にしている姿を見て、紗菜は驚いた。

その頃、紗菜は自分の心の中で、翼に対して「ただのクラスメート」以上の感情を持ち始めていた。それでも、紗菜はそれを認めたくなかった。心の中では、「こんな自分が彼に気を取られていいわけがない」と、必死で気持ちを押し込んでいた。そうすることで、自分が誰かに弱い部分を見せることを避けたかったからだ。

でも、次第に気づくようになった。翼は、クラスの中でどんなに目立とうとしても、実は本当に人を大切にしているということに。彼が誰かを助けるとき、その手はいつでも真摯で、心から相手のことを考えていた。その姿勢が、紗菜の心を少しずつ動かしていった。

でも、今、振り返ってみると、少しずつその気持ちが変化していたことに気づいた
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