由良くん、愛さないで
「……」
わたしはその場でじっと固まり、動けずにいた。
今朝とは真逆の明るい笑顔で駆け寄ってきた男、楪葉由良はわたしの正体などつゆ知らず、警戒心ゼロでわたしを抱きしめた。
「……っ」
心臓が一度だけ大きく鳴る。
羽交い締めにされるように強く抱きしめられ、わたしはこの状況に混乱する。
「ちょ……っ、何をするんですかっ」
わたしは勢いよく楪葉由良の腕を引き剥がした。
この時初めて、体力づくりをしてきてよかったと思った。
殺し屋なんて仕事をしていなければ、きっと楪葉由良の腕を引き剥がせなかっただろう。
近距離で楪葉由良の綺麗な瞳と視線が交わる。
「やっぱり、あすかちゃんだ」
朝とはまるで違う。
一輪の花が咲いたようにふわりと微笑んだその男は、感情の読めない瞳の中にそっとわたしを映した。
わたしは動揺してしまうのを必死にこらえる。
切れ長の目、凛々しい眉、美しい輪郭に高い鼻。
天は二物を与えずというのに、この男だけが例外だ。

