由良くん、愛さないで
「────あすかちゃん、?」
背後から、そんな声が聞こえた。
確信を持ったような、だけどどこか不安げな声。
わたしは一瞬思考停止した。
……あすか〝ちゃん〟?
わたしをそう呼ぶ人なんて、この学園にはいないはず。
振り向くべきかどうか判断に迷った。
そのまま無視して行く選択もあった。
だけどここで無視して歩き出したら不審に思われるかも知れない。
それにきっと、この学園にいる生徒ならわたしみたいな庶民の身辺調査は造作もないことだろう。
わたしはゆっくりと振り向いた。
そしてそこにいた人物に、目を見開く。
「もしかして──あすかちゃん?」
その男とバチッと目が合い、その無気力な目に光が宿る。