猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
「ベル。俺が帰ってきたとたん、突然、飛びついてきたんだ。『みゃー』って」
「そうなんだ。ベルちゃん。渚くんにすごく懐いていたよね。いつもべったりで……」
「今もだよ」

柔らかい渚くんの声が、すとんと胸に落ちる。
この安心感に、思わず泣きたくなった。

「しかも、母さん。ベルと張り合うみたいに、俺を抱きしめてきてさ。その日は、父さんが帰ってくるまで、母さんと一緒にベルと遊んでいたんだ」

渚くんが亡くなってから、渚くんの両親とはほとんど会っていない。
唯一、顔を見たのは葬式の日だけだ。
その日も、一人息子を亡くした渚くんの両親の表情は暗く、とても声をかけられるような状況ではなかった。
もっとも、わたしも気落ちしていて、それどころではなかったのだけど。

……でも、良かった。

渚くんのお母さん、あれから体調を崩したって聞いていたけど、渚くんが帰ってきてからは元気が出たみたい。
渚くんのお父さんも元気そうだ。

「ベル。冬華に、会いたがっていたよ」
「うん。わたしも、ベルちゃんに会いたい」

色を失くした世界は、渚くんの存在だけでいつだって温かくなる。
これからは以前のように、渚くんの家に行きるんだ。
そう思うと、少し不思議な感じがした。
いつも渚くんの家に行く前には、一人でいることが寂しいと電話をしていた。
メッセージも毎日、何通も送った。
それなのに、渚くんは一度も邪険にせずに、落ち込むわたしをなぐさめてくれる。
いつも優しく励ましてくれた。
わたしはそんな渚くんのことが、今も昔も大好きで仕方なかった。
< 27 / 73 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop