猫は、その恋に奇跡を全振りしたい


鹿下くんという新たな部員が入部した翌日の放課後。
わたしは渚くんに誘われて、渚くんの家の前に立っていた。
目的はベルちゃんに会うこと。
そして、久しぶりに、渚くんたちと一緒に夕食を食べることだ。
趣のある一軒家を目の前にして、手が少し震える。

(渚くんの家に行くのは久しぶりだな)

久しぶりに会う緊張のせいか、わたしはインターフォンをおそるおそる押す。
わたしが用件を伝えると、渚くんに似た穏やかな雰囲気の女性が出てきた。

「冬華ちゃん、久しぶりね。渚から聞いているわ。今日は来てくれてありがとう」
「お久しぶりです」

渚くんのお母さんの花咲くような笑顔に、わたしはぺこりと頭を下げる。

「あのー。これ、母から」
「まあ、ありがとう」

わたしがお菓子の入った袋を差し出すと、渚くんのお母さんは嬉しそうに顔を輝かせた。
体調を崩していたはずの渚くんのお母さんは、今ではすっかり、元気はつらつっぷりを発揮しているみたい。
渚くん効果は、本当に絶大だ。

「ささ、入って、入って。冬華ちゃんが来ると知って、ベルもそわそわしていたの」
「お邪魔します」

玄関に入ると、渚くんのお母さんはリビングに招いてくれた。

「ベル。冬華ちゃん、来たわよ」
「みゃー」

渚くんのお母さんの視線を追うと、天使の鳴き声が聞こえた。
いつの間にか、足元にいた人懐こそうな猫が「かまってー」と言わんばかりに足にすりついてくる。
まさに愛くるしさの塊だ。

「ベルちゃん、かわいいねー」

わたしはしゃがみ込み、ベルちゃんをなでる。

「みゃ〜」

気持ちよさそうに目を細めたベルちゃんが、つぶらな瞳でわたしを見上げた。

「…………っ」

この時点で骨抜きだ。
かわいすぎて、崩れ落ちそうになる。
ベルちゃんは、『ラグドール』という種類の大きな猫。
愛らしい見た目で、穏やかな性格なんだ。

「冬華、いらっしゃい」
「あ、渚くん!」

渚くんの姿を目の当たりにした瞬間、わたしの口から喜びが溢れる。
だけど、それはベルちゃんも同じだったみたい。
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