猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
「みゃー」

ベルちゃんはとてとてと、渚くんのもとに向かった。

「ベル、冬華に会えてよかったな」
「みゃー、みゃー」

渚くんが声をかけると、ベルちゃんは抱っこをねだるように鳴き声を上げる。

「はいはい、分かってるよ」

渚くんがふわりと優しく抱き上げた。
そのとたん、ベルちゃんはふにぃと気持ち良さそうな声を上げて、ご満悦。
ベルちゃんは相変わらず、渚くんにすごく懐いているみたい。

「冬華、今日は来てくれてありがとう」
「うん」

渚くんの柔らかな笑顔に、わたしは心を弾ませた。

「冬華ちゃん、夕食はちょっと待ってね」

渚くんのお母さんは台所で、お茶を用意してくれている。
そして、トレイにお茶とお菓子を乗せて、ソファーの前のローテーブルに並べた。

「ありがとうございます」

わたしは頭を下げると、目の前にあるお茶から立ち上る湯気を見つめる。
ゆらゆらと湯気が揺れて、やがて消えていく。

「今日の夕食は、冬華ちゃんもいるし、豪華にしたいわね」

渚くんのお母さんはスマホを見ながら、台所に戻っていった。

「冬華。実は母さん、料理は、いつも動画アプリで料理チャンネルを見て作っているんだ」
「あ、わたしのお母さんもだよ!」

声を上げたわたしは、渚くんと料理の話題で盛り上がる。
両親ともに仕事で忙しくて、家を空けることが多かった。
わたしが小さな時から、お母さんは事前に用意した作り置きか、動画アプリで料理チャンネルを見て作っていた。

「わたし、本当は自分で料理、作りたかったんだけど……。わたしがご飯作るって言っても、何故か聞き入れてもらえないんだよね」
「冬華は昔から、危なっかしかったからな。フライパンをぐるぐると振り回したりして」
「むっ。だって、加減が分からなかったんだもん!」

わたしがふてくされたように言うと、渚くんは苦笑する。
とはいえ、実際のところ、わたしは料理は下手だ。
以前、ホットケーキミックスを一面にばらまいたり、火加減を間違えたことで、お母さんから台所に立つのを禁止されたほどだ。
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