猫は、その恋に奇跡を全振りしたい

第五章 虹の光を追いかけて

久しぶりに渚くんの家に行った翌日の放課後。

「余命七日の子猫?」

猫巡り部に、新たな事件が舞い降りた。
井上先輩が神妙な面持ちで口にする。

「この前、校長先生の依頼で、学校の敷地内に入り込んだ猫たちの保護のお手伝いをしたよね。あの後、みんな、動物病院の検査を受けていたんだけど、実は一匹の子猫が『余命七日』の宣告を受けたの」
「余命七日……」

思わぬ事態に、血の気が引くのが分かった。

「名前は、ミルちゃん。生まれたばかりで保護したときから健康状態が悪かったんだけど……。今、ミルちゃんの体は冷えていて、わずかに動く程度なんだって……」

井上先輩の声が震える。呼吸が乱れていた。

余命七日。

胸の中にすきま風が吹き込んでくるように、心が急速に凍えていくのを感じる。

(渚くん……)

私の心に弾かれたように、あの日の記憶が蘇ってくる。

渚くんの訃報を聞いたあの瞬間。

じんわりと目の奥が熱くなって、目の前の井上先輩の顔がぼやけてしまう。

「余命わずか……」

その事実を口にしたら、堪えていた涙が一粒、頬を流れた。
このままじゃ、ミルちゃんはもうすぐ亡くなってしまうんだ。
生まれたばかり、何も知らないまま、この世界から消えてしまう。
何も残せないまま、この世を去ってしまうんだ。

「私、ミルちゃんの最期を看取りたいの」

想いを噛みしめるようなゆっくりとした速度で、井上先輩の切羽詰まった声がした。
それを聞いた瞬間、目の奥が熱くなる。
体中の皮膚が鳥肌を立てて、感情の全てが震え出す。

「……わたしも、ミルちゃんの最期を看取りたいです」

言葉にすれば、思いは形を持って湧き上がってくる。
わたしはあの日、渚くんの最期に立ち合うことはできなかった。

でも――。

わたしは隣に立つ渚くんを見た。
以前と変わらない、大好きな人がそこにいる。

「冬華、俺たちにできることをせいいっぱいしよう」
「……うん」

渚くんの優しい声に、溢れる涙を抑えられなくなった。
弱いわたしは、たとえ偽物でも、今の渚くんに救いを求めてしまう。
そんなわたしたちの様子を、鹿下くんは複雑な眼差しで見つめていた。
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