猫は、その恋に奇跡を全振りしたい


その日の放課後。 
わたしたち、猫巡り部は、動物愛護センターを訪れていた。
目的はミルちゃんの最期を看取るためだ。
ケージにいたミルちゃんはぐったりしていた。

「ミルちゃん……」

井上先輩が声をかけても、反応はない。
荒い息を吐いている。
死期が迫っているのだろうか。
わたしは焦ったようにケージに駆け寄った。

「ミルちゃん。わたし、冬華っていうの。どうしても、あなたに会いたかったんだ」

せいいっぱいの思いの丈をぶつける。

「わたし……わたし……」

もっといっぱい伝えたい気持ちがあるのに、息が詰まってうまく声が出ない。
すると、自分の死期が近いことを悟ったのだろうか。
もどかしさに眉を寄せるわたしを見て、ミルちゃんは僅かに目を細めた。

どうしたらいいんだろう。
この子は、もうすぐいなくなる。
あの日の渚くんのように。

それは思い出すと後悔だらけで、何もできなかったという現実が襲ってくる。
だけど、絶望の気持ちは――、

「冬華」

ぎゅっと握られた、渚くんの手の温もりによって霧散した。

「大丈夫だよ」
「……うん」

――ダメだ。
ミルちゃんを不安にさせることをしたらダメだ。
しっかりしなくちゃ。
渚くんがそばにいる。
だから、大丈夫だ。
わたしは深呼吸をするような間を空けて、言葉を紡いだ。

「わたしね、ミルちゃんの家族になりたいの」

わたしは猫好きだ。
だけど、お母さんが猫嫌いで、今まで飼うことができなかった。
でも、わたしはミルちゃんとこれからも一緒にいたい。
その想いに嘘をつくことはできなくて――。

「これからずっと、ミルちゃんと一緒に過ごしたい。だから、わたしと家族になってください」

わたしはミルちゃんに対して、ぺこりと頭を下げた。
もし、この状況を乗り越えられたら、星に願わなくたっていい。
無理に繋ごうとしなくても、ミルちゃんの迷惑にならないタイミングでもう一度、伝えられる。
……自分の言葉で、届けられる日がやってくる。
もうおもんぱかって踏みとどまり、遠慮して一歩引くような、臆病な心に悩み惑わせたくなかった。
< 32 / 73 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop