猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
「冬華なら、どんなことでもできるよ」

渚くんの言葉は、まるで魔法だ。
心に伝わる熱が焦がれるようで、胸が高鳴ってしまう。
その時、ふと誰かの視線を感じた。

「…………」

振り向くと、鹿下くんと目が合ったけど、すぐにそっぽを向く。
不服そうなその態度に、思わずカチンときてしまった。

「言いたいことがあるなら、言えば?」
「なんのことだよ?」

わたしが訊くと、鹿下くんはふてぶてしく返した。

「わたしが、渚くんの未練を晴らさせないことに不満があるんだよね」

鹿下くんは不快そうに眉根を寄せてるけれど、不快度数なら、こちらの方が上だと思う。

「なんかあるでしょう。言いたいこと」
「ねぇよ」

わたしの言い分に、鹿下くんはさっと目を逸らした。

「渚くん。わたしに鹿下くん、いい人だって言ったの。大切な親友だって」

鹿下くんは意外なことを聞いたように目を見開いた。
意表をつくような反応に、わたしの心臓が音を立てる。

「わたしは全然、そうは思わないけど」
「そうかよ」

わたしの切り返しに、鹿下くんは不本意そうに言う。
その瞬間、わたしたちの間にバチッと火花が散った。

「わたしの知らない渚くんの親友。なんかムカつく!」
「俺の知らない麻人の幼なじみ。それがムカつくんだよ!」

同じことを言い返されて、わたしはぽかんとしてしまう。

「……もしかして、鹿下くん。今井くんが、渚くんのクロム憑きになったことで、今までと変わってしまったことが気にくわないの?」
「なっ……」

鹿下くんはどこか焦ったように口ごもった。
その様子で、わたしは直感する。

「やっぱり、そうなんだ」
「そそっ、そういうわけじゃない……」

鹿下くんは慌てて否定していたけど、それは裏返しの肯定に聞こえた。

「そもそも、おまえだって、今のあいつに違和感を覚えているだろ?」
「そうだよ。だけど、隣で一緒に笑ってくれるのは、今も昔も変わらないから」

泡を食って反論した鹿下くんに、わたしにぽつりと素直な声音をこぼす。

「もし、選ばないといけないとしても、わたしはどちらも選ぶよ。だって、どちらも渚くんだから」
「……どちらも麻人」

鹿下くんは思わず動揺して、挙動不審な動きをしまう。
わたしは唇を噛みしめて、きっぱりと言った。

「親友なら、つまらない遠慮しないでよ!」

つい抗議のような口調になってしまった。
だけど、そんなわたしを眺めるようにして、鹿下くんが吹き出して笑った。
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