猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
翌日の放課後。
わたしは猫巡り部の部室で、みんなの様子をぼんやりと眺めていた。
井上先輩は猫に関する依頼を受けたり、今度の猫神祭りに向けて、忙しなく動き回っている。
だけど、昨日のこともあってか、表情は浮かない様子だった。
他の部員の人たちも、どこか元気がなかった。
ミルちゃんはもういない。
でも、ミルちゃんがいなくなっても、時間は進んでいく。
否応なしに、時間だけが刻一刻と流れていた。

「冬華、大丈夫?」

声をかけられて振り向く。
渚くんが心配そうに、わたしの顔をのぞき込んでいた。

「……うん。渚くん、心配かけてごめんね」

昨日のミルちゃんとの別れが、頭から消えてくれない。
それでも、わたしは力なくうなずいた。

「猫は亡くなる前に、飼い主の不幸を持てるだけ持っていこうとするんだって」

声を落とした渚くんに、わたしははっとした。
虹の橋へ旅立つ前に、猫は飼い主の不幸を持っていこうとする。

まるで恩返しのように――。

だけど、わたしは素直な気持ちを口にした。

「ミルちゃんは、幸せだけを抱えていってくれたらいいな」
「……そうだな。昨日、冬華に出逢えたことは、ミルにとって幸せなことだったと思うよ」
「そう、かな……」
「お別れしても、思い出はきっと、心に残るから」

渚くんは穏やかな笑みでうなずいた。
不思議だ。
ミルちゃんが亡くなってから、ずっと落ち込んでいたのに。
渚くんの言葉で、いつの間にか前を向くことができている。
そんな奇妙な感覚に、胸が複雑に高鳴った。

「渚くん。わたし、猫を飼いたい。お父さんとお母さんが許してくれなくても、絶対に諦めたくない」

わたしは確かな決意を口にする。

「だって、ミルちゃんにもう一度、再会したいから」

言いながら、気づく。
そうだ。
わたしはミルちゃんと再会したいんだ。
だから、猫を飼いたい。

「だけど、どうしたらいいんだろう……。お母さんは猫が嫌いだし……」
「焦らないで、今から少しずつ、今までできなかったことをやっていけばいいんじゃないか」

固まっているわたしに、渚くんは導くように言った。

「冬華が進みたい方向に行くのが一番だと思う」
「渚くん、ありがとう。わたしはもう逃げない。自分の気持ちに素直でいたい」

渚くんのアドバイスに、わたしは不思議な感覚に包まれる。
わたしはいつも、居場所をくれた渚くんをつなぎとめたくて、そのためなら何でもしたくて必死だった。
あの感情は、いまだにわたしの中でくすぶっている。

渚くんが好き。

だから、渚くんを守れるくらい、もっともっと強くなりたいと思う。
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