猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
*
それから、わたしたちはたくさんの時間をともに過ごした。
二人で一緒に買ったメモ帳に、二人が幸せになれることを、片っ端から書いていった。
遊園地や水族館。
映画館や図書館。
行きたいところや気になったところは、ぜんぶ回った。
そうして、わたしたちはやりたいことを一つずつ、消化していった。
二人で声を出して笑う時間が、あとどれくらい続くだろう。
少しでも長く続くように、できることは――。
たくさんの幸せとともに、真新しい奇跡を連れてくること。
そう考えた11月下旬のその日、わたしたちは保護猫カフェに来ていた。
目的は、渚くんの誕生日を祝うことだ。
「みんな、かわいいねー」
気持ちが花咲く気分で、わたしは猫たちを見つめた。
猫部屋には、愛らしい猫たちがたくさんいる。
「……あれ?」
不意に、足元にふわりと温かな猫の身体が触れた。
「にゃー」
見仰いでくる子猫に、わたしは微笑みを返す。
猫の隣にしゃがみこむ。
そっと手を伸ばせば、猫は人懐っこい仕草で手のひらに小さな頭を押し付けてきた。
「ねえ、猫さん」
ふわふわの毛に包まれた頭を柔らかく撫でながら、わたしはささやく。
「どうしたら、このまま、渚くんと一緒にいられるのかな」
誰かを好きになることは素晴らしいことのはずなのに。
胸がドキドキして、頭がふわふわして、身体がぽかぽかになって、それはとても良いことのはずなのに。
それと同時に、胸が苦しくなるのは、別れが近いせいだろう。
「どうしたら、ロスタイムは永遠になるのかな」
大好きな人のことを考えるのは、とても楽しくて嬉しいことのはずなのに。
会いたいと思えば思うほど、泣きたくなってしまうのは、もうすぐ、彼がいなくなってしまうからだろう。
「にゃ……」
猫はもちろん、何にも答えない。
ただ、何かを伝えるように、じっと見つめていた。
「猫さん、ありがとう」
何だか、猫に励まされた気がして、わたしは両手を伸ばす。
そっと抱きしめると、切なくて苦しいままだった胸に、猫の柔らかな温もりが宿る。
猫の温かさに勇気をもらって、わたしは小さく深呼吸した。
(今日はわたしの中の好きが溢れて、渚くんのこと、まともに見れなかったけど……)
高鳴る胸を抑えながら、渚くんをまっすぐに見上げる。
「わたしは今も昔も、渚くんのことが好き。今の渚くんは、わたしの手を離さないでね」
「ああ。約束するよ」
わたしたちは夢をなぞるように、指切りして約束した。
でも、その約束が決して叶わないのは知っている。
ロスタイムの終わりが近づいているから。
「改めて考えると、会いたい時にすぐに会えるって、すごいことなんだよね」
「ほんとにそうだな」
初めて出会った日。
あの日、感じた熱は、繋いだ手の体温は、今でもわたしの中を巡っている。
それから、わたしたちはたくさんの時間をともに過ごした。
二人で一緒に買ったメモ帳に、二人が幸せになれることを、片っ端から書いていった。
遊園地や水族館。
映画館や図書館。
行きたいところや気になったところは、ぜんぶ回った。
そうして、わたしたちはやりたいことを一つずつ、消化していった。
二人で声を出して笑う時間が、あとどれくらい続くだろう。
少しでも長く続くように、できることは――。
たくさんの幸せとともに、真新しい奇跡を連れてくること。
そう考えた11月下旬のその日、わたしたちは保護猫カフェに来ていた。
目的は、渚くんの誕生日を祝うことだ。
「みんな、かわいいねー」
気持ちが花咲く気分で、わたしは猫たちを見つめた。
猫部屋には、愛らしい猫たちがたくさんいる。
「……あれ?」
不意に、足元にふわりと温かな猫の身体が触れた。
「にゃー」
見仰いでくる子猫に、わたしは微笑みを返す。
猫の隣にしゃがみこむ。
そっと手を伸ばせば、猫は人懐っこい仕草で手のひらに小さな頭を押し付けてきた。
「ねえ、猫さん」
ふわふわの毛に包まれた頭を柔らかく撫でながら、わたしはささやく。
「どうしたら、このまま、渚くんと一緒にいられるのかな」
誰かを好きになることは素晴らしいことのはずなのに。
胸がドキドキして、頭がふわふわして、身体がぽかぽかになって、それはとても良いことのはずなのに。
それと同時に、胸が苦しくなるのは、別れが近いせいだろう。
「どうしたら、ロスタイムは永遠になるのかな」
大好きな人のことを考えるのは、とても楽しくて嬉しいことのはずなのに。
会いたいと思えば思うほど、泣きたくなってしまうのは、もうすぐ、彼がいなくなってしまうからだろう。
「にゃ……」
猫はもちろん、何にも答えない。
ただ、何かを伝えるように、じっと見つめていた。
「猫さん、ありがとう」
何だか、猫に励まされた気がして、わたしは両手を伸ばす。
そっと抱きしめると、切なくて苦しいままだった胸に、猫の柔らかな温もりが宿る。
猫の温かさに勇気をもらって、わたしは小さく深呼吸した。
(今日はわたしの中の好きが溢れて、渚くんのこと、まともに見れなかったけど……)
高鳴る胸を抑えながら、渚くんをまっすぐに見上げる。
「わたしは今も昔も、渚くんのことが好き。今の渚くんは、わたしの手を離さないでね」
「ああ。約束するよ」
わたしたちは夢をなぞるように、指切りして約束した。
でも、その約束が決して叶わないのは知っている。
ロスタイムの終わりが近づいているから。
「改めて考えると、会いたい時にすぐに会えるって、すごいことなんだよね」
「ほんとにそうだな」
初めて出会った日。
あの日、感じた熱は、繋いだ手の体温は、今でもわたしの中を巡っている。