猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
「わたしはずっと前から、渚くんに会いたいばかりだったよ。わたしのすべては、渚くんだったから」
「俺も、そうだったよ」

何気ない出来事がトリガーとなって、わたしの脳裏に、ふわりと過去の情景が浮かぶ。
わたしと渚くんが一緒に見ているもの。
――それは幼稚園バスで、わたしたちが隣合わせで座る、いつかの春の一場面だった。

『はじめまして、なぎくん』
『うん。ふゆか、はじめまして』

出会って何年も経った今も、あの日の渚くんの優しい笑顔はしっかりと覚えている。
思い出すたび、心臓が鳴り始める。
今だって、そうだった。
隣にその男の子がいるのに、うるさいくらいに胸が騒いでいた。

「……冬華、ごめん。あのキーホルダー、失くしてしまって……」
「ううん。渚くんの未練が、キーホルダーを見つけることって聞いて……正直、嬉しかった。渚くんも、このキーホルダー、すごく大事にしてくれていたんだって分かったから……」

初めて会ったあの日からずっと、この笑顔のきれいな男の子が胸の真ん中にいる。

「俺にとっては宝物だよ」
「わたしにとっても宝物だよ。渚くんがいなくなってからも、それがあるから頑張れた」

まるで、渚くんがそばにいてくれるみたいだったから。

「……今まで、本当にいろんなことがあったよね」
「うん、……たくさん、あったね」

わたしはちょっとだけ、寂しい口調でささやいたけど。
不安があるというなら、取り除くだけ。

「きっと、これからもいろんなことがあるよね!」

その寂しさを振り払うように、わたしは軽い足取りで数歩進む。
くるりと身体ごと振り返って、猫たちを背に、色鮮やかに笑う。

「行こう、渚くん! 一緒にお誕生日を楽しもう!」
「ああ。冬華、ありがとう」

わたしは、渚くんと一緒に生きることを諦めない。
絶対に――。

このデートがどんな意味を持つかは、わたし次第でも変わるはずだから。
今日がいい日になるといいな。

保護猫カフェを出たわたしたちは、次の目的地へと向かう。
町の活気を言祝ぐように、通りは様々な催しもので彩られていた。
駅ビルに百貨店、それから色々な路線の改札口を繋ぐ通路には、所狭しと名店が並んでいて、食事もお土産も目移りしてしまうほどにある。

「もうすぐクリスマスだね。渚くんと一緒にイルミネーションを見たいな」

わたしはそう言いながら、空へと手を伸ばす。
空をつかもうとした細い指先が、ぎゅっと握り込まれて小さな拳となる。

「渚くん、今日は楽しい?」
「ああ、楽しいよ。それに冬華が楽しそうだと、俺も楽しい。冬華が嬉しそうだと、俺も嬉しい。今日は特別な日になりそうだ」

渚くんは瞳に空を映し、穏やかに笑う。
今日は渚くんにとっても、特別な日なんだ。
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