最愛から2番目の恋
「……マリツァは身籠っていない。
 お前を帰らせるために、正妃の前だけで子供が出来たふりをしろ、と言ったんだ。
 それがあんな風に……皆の前で言い出すとは、どうしたのか理解出来ない。
 お前には愚かに見えただろうが、実はマリツァは賢い女で。
 自分の立場も、俺の気持ちも全部分かってくれていたのに」

 どうしたのか、って……クラシオンは彼女と10年も一緒に居たのに、本当に分かっていないのか。
 ガートルードは教えてやりたくなった。


 それはね、貴方を愛しているからですよ、貴方にとっては彼女は番ではないかもしれないけれど。
 彼女にとっては、貴方は番なんです。
 お飾りとは言え、正妃となる女が現れて。
 平気なわけがないでしょう。
 
 その女は思っていたより神経が太くて、どんなに邪魔にしても国へ帰らない。
 だから、子供が出来た、と……
 そう夫に側妃の健気さを教えてあげようとした時、クラシオンが言い出した。


「……ガートルード……早く逃げないと、多分お前は殺されるぞ」



 早く逃げないと、わたしは殺される?
 さっきまで、妻の命を狙っていると思っていた夫が言う。


「明日、カリスレキアの国王陛下と帰国しろ。
 ヴァルチの伯父が、邪魔なお前を狙っている。
 あいつはまた、名ばかりの正妃でいいのなら、と俺に14のサレンディラを娶らせようと動き始めた」

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