最愛から2番目の恋
 初対面から口汚く罵って愛想をつかせて、帰国させようとして。
 次は、子を宿した番を守るために、愚かな暴力男が手を上げるふりをした。
 ゆっくりした平手打ちの動作は、避けられるだろうけれど、取り押さえられるとは思わなかったのだろう。
 わざと「捕縛しろ」と騒いだけれど、それでも平気な顔をされて。
 何をしても帰国しそうにない様子に、如何にも自分が命を狙っているかのように脅した。
 それで、わたしに周囲を用心させるように仕向けた。


 これまでの一連の夫の行動の意味を知り、ガートルードは思う。
 ……この人は思っていたような悪い人ではなかったが、何も分かっていない残念な人だ。

 どうして最初から、ややこしい真似をせずに事情を言ってくれなかった?
 他国の王族に、祖先の恥部を話したくないのは分かる。
 けれど、ガートルードのアーレンス家だって清廉潔白ではない。
 どの国の王家だって、1つや2つ、いや3つ4つのきな臭い話は、王座をめぐる権力闘争には付きまとう。


< 107 / 197 >

この作品をシェア

pagetop