逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX
 イタリアンかフレンチレストランに案内されるとばかり思っていたが、たどり着いたのは路地裏に佇む、小さな割烹だった。

 凛とした和の設えを仄かな灯りが照らす、看板すらない隠れ家のような店だ。

 箱庭に面した奥の座敷に通されて、私は今まで味わったことのないような懐石料理でもてなされた。

 シンプルながら奥行きが感じられる料理を、女将が選んだ日本酒とともにいただく。控えめに言っても、至福の時間としか言いようがない。

 彼はお酒には一切手を付けず、ガス入りの水やモクテルを楽しんでいた。

 女将との会話から察するに、シャインマスカットとジャスミン、リンゴとカルダモンなど、旬のフルーツにスパイスを合わせたモクテルは、彼が予約を入れるときに特別に用意されるもののようだった。

「連れてきてくれてありがとう」

 デザートの柿の羊羹を終え、私は深々と頭を下げた。

「今日のお料理……、本当に美味しくて、新しい世界を知った気がします」

「それはよかった」

 彼──出雲(いづも)(れん)──は満足そうに微笑み、唇の前で両手の指を組んだ。その指先すら美しくて、私はまたしても見入ってしまった。

 もし私が彫刻家だったなら、彼からインスピレーションを得て、神がかった傑作を作れそうな気がする。

 彫刻家でないことを悔やむ私に向かい、彼はにっこりと笑った。
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