逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX
「悲しむにもエネルギーがいる」──手帳に書こうと思ったけれど、あまりの疲れに手帳を取り出す気力すらなかった。

 よろよろと歩きながら電車を乗り継ぎ、友記子のアパートへ向かう。彼女の家はスタジオ・マンサニージャから2駅のところにある。いつも「通勤に時間をかけるのは人生の無駄」と言っている彼女らしい選択だった。

 駅前のスーパーに立ち寄り、デリコーナーでオリーブとリンゴのペンネサラダを買って、友記子の部屋まで歩く。冷えた夜の空気が、頬に心地よかった。

 蓮さんのことを思い出さないように、私は自分の誕生日プランに思いを巡らせた。初めての失恋を記念して、今年はひとりで贅沢するのも悪くない。高級温泉旅館に泊まったり、宮崎の岬へ野生の馬を見に行ったり、バンジージャンプに挑戦するのも楽しそうだ。

 心の中を好きなもので満たすのは楽しかった。だけど──その奥には、どうしても消すことができない、大きな空白が広がっていた。

 ふと顔を上げると、三日月が私を見下ろしていた。その淡い光が、胸の奥にわずかな温もりを運んでくれる気がした。

 友記子の部屋に着いて、チャイムを押す。

「おかえり!」
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