逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX
 倉本美佐先生は、この事務所を率いる日本ドラマ界の大御所だ。

 先生の得意なジャンルは、ステキ女子がキラキラした日常の中で完璧な彼に溺愛される恋愛もの。20代から60代と、幅広い年代の女性たちから熱狂的な支持を集めている。

 友記子が下っ端シナリオライターの過酷な環境に危惧しているのには理由がある。友記子も入社当時は、私と同じ脚本家志望だったのだ。

 雑用でこき使われていたあの頃がいちばんつらかったが、友記子たち同期と将来の夢──オリジナルの映画やドラマの脚本を自由に書くこと──について話しているときだけは、宝石のように輝く時間だった。

 入社して1年、ほとんど家に帰れないブラックな職場環境に見切りをつけて、友記子は定時に帰れる総務への異動を希望した。

 寂しかったけれど、何でも話せる友記子が辞めずに残ってくれたのは本当にありがたいことだった。

 そんな友記子の真摯な視線が痛くて、私は目を伏せた。友記子は続ける。

「薫はそれでいいの? ……航ともギクシャクしてるみたいだしさ」

 その名前を聞いたとき、胸の奥に苦いものが広がる。笑ってごまかそうとしたけれど、顔が引きつってしまい、無理だった。
< 4 / 590 >

この作品をシェア

pagetop