逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX
 ──やあ、電話をくれて光栄だ。あいにく僕は今、原稿と静かに語らっている最中でね。物語を紡ぐことは、自分自身を探る旅でもある。もう少しだけ、この迷宮(ラビリンス)彷徨(さまよ)わせてくれるかい? 次にきみと話せる日を楽しみにしているよ。さて、そのとき僕は、今よりも少しだけ輝いて映るだろうか……きみのその瞳に。

 何度かけても、気障(きざ)で無駄に長いメッセージが流れるだけで、留守電には繋がらずに通話は切れてしまう。いつ終わるかわからない館詰期間中は、電話には一切出ないつもりなのだろうか。

 仕方なく、須賀さんの番号に「至急、連絡をください」とメッセージを送った。

「祐介、中に入ってお茶でも飲もう」

 玄関先で立ち尽くす祐介の肩に、そっと手を置く。彼は一瞬ためらったが、ゆっくりと頷いた。

 室内に入り、リビングのソファに彼を座らせ、私はお茶を淹れるためキッチンへ向かう。シンクの横には、ジャガイモやトマト、葉野菜が、洗われるのを待つように並んでいた。

 祐介は大雑把なようでいて、意外と几帳面だ。ソファベッドは毎朝きちんと畳むし、料理のあとはシンクの内側まで拭き上げ、水滴すら残さない。

 そんな彼が、すべてを放り出して根尾頁出版へ向かったのだと思うと、なんだか胸が締めつけられた。
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