逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX

第89話

 蓮さんにお礼を伝えたあと、祐介は視線を落とし、そっと目を閉じた。

 そして、ゆっくりと深く息を吸い込む。ようやく呼吸が戻った──そんな様子だった。

 私は「よかったね」の気持ちを込めて、そっと彼の肩を叩いた。祐介は小さく笑い、私に頷いてから、蓮さんの方を向く。

「蓮さん、俺……エルネストEPからの映像化オファーを受けるかどうか、会社の方針や現場の空気を見極めたうえで決めたくて、派遣として入りました。結果的にこんな失礼な形になってしまって……すみませんでした」

 柔らかな表情に戻った祐介が、深く頭を下げる。さっきまでの張りつめた空気は、もうすっかり消えていた。

「それから……たぶん気づいていたと思うけど、俺、最初は蓮さんのことも試していました。もし、姉ちゃんを(もてあそ)ぶような人だったらすぐに別れさせるつもりだったし、会社がどれだけ良くても、映像化の話は断るつもりでした。ごめんなさい」

 さっきまで自然に着こなしていたはずのスーツが、どこか借り物のように見える。まるで舞台を降りた役者が、まだ衣装だけを身にまとっているかのようだった。

「『誰かを信頼できるかどうかを知る最善の方法は、彼らを信頼してみることだ』って、ヘミングウェイは言ってたのに……俺、全然できてなかった」

 蓮さんはテーブルに片手を添えたまま、ゆっくりとうなずいた。
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