逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX

第90話

 蓮さんがそっと広げたのは、文化系ライフスタイル誌から切り抜かれた一枚の紙だった。

『大人気連載! 作家の実家ごはん エッセイ&レシピ』

──その見出しの下には、連載の第33回として、こう書かれていた。

『春木賢一朗の実家ごはん』

 祐介は蓮さんから記事を受け取るなり、目を輝かせる。

「うわ、これ! たった三年前なのに、めっちゃ懐かしい! え、もしかして……蓮さんも春木のファンなんですか?」

 蓮さんは小さく笑って、さらりと返す。

「まあね」

「やっぱり……! やっぱり蓮さんは俺の蓮さんだったー!」

 浮かれる祐介の耳をつまんで「アイタタタ!」と言わせつつ、私は蓮さんに聞いた。

「話が見えないんだけど……どういうこと?」

「ビストロで話したの、覚えてる? 春木賢一朗がデビュー直後に、雑誌にエッセイとレシピを寄せてたって話。あのときは須賀さんの反応を見るために、わざとカレーと言ったけど、実際に載っていたのは肉じゃがのレシピだったんだ」

「見せて」

 知里さんが手を伸ばし、祐介から紙片を受け取る。私も横からのぞき込んだ。

「春木の文芸誌の記事は全部読んでたけど……ライフスタイル誌はノーチェックだったわ」

 蓮さんは穏やかにうなずいた。
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