逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX
「そうそう、エッセイに出てくるお姉さんの話も、あらためて面白く読ませてもらったよ。ありがとう」

 ……お姉さんの話?

 嫌な予感がして祐介のほうを見ると、彼はとぼけた顔で視線を逸らしていた。

 横から知里さんが、記事を見ながら言った。

「ああ、このくだりね。『──幼稚園の頃、僕はカレーの匂いが少しだけ苦手だったので、家では一度も出されたことがなかった。けれど、小学一年だった姉は納得がいかず、僕が寝てから毎晩こっそり枕元に来て、カレー粉の匂いを嗅がせていたらしい。無意識のうちに慣れさせるつもりだったのだろうが、僕はカレー粉の砂漠をさまよう悪夢を見るようになり、以来、カレーは完全にトラウマになってしまった』」

 知里さんは記事から顔を上げ、心底呆れたような目でこちらを見た。その隣では蓮さんが、口元を片手で押さえ、うつむいたまま肩を小さく震わせている。どうやら、笑いをこらえるのに必死らしい。

「ちょっと祐介!」

 私は勢いよく振り返り、声を上げた。

「あんた、それ書いたの⁉︎」

 祐介は肩をすくめ、悪びれる様子もなく言い放った。

「だってさ、姉ちゃんを象徴する最高のエピソードじゃん。ネタにしない方がもったいないって」

 知里さんは小さくため息をつき、首を振った。

「薫、あなた……そんなことしてたのね。でもまあ……やりかねないか」

「ち、違うんです知里さん!私はただ、祐介にカレー嫌いを克服してもらって、うちでも普通にカレーを食べたかっただけで……!」
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