白である
3月になったばかりのうすいきんいろのひるまのひかりが、レースのカーテンを通して、咲きはじめたばかりの初々しい梅の香りを、俺の仕事場に運んできた。
その香りが可視化されたような、木の床にうつる幾何学模様。レースの模様だ。
物陰の足踏みミシンの音。ガタガタガタガタガタガタ、と床がふるえる。幾何学模様の床が。
「世界でひとつだけのウェディングドレスを」と言う依頼を受け、俺はこの古びた白亜の洋館の一室を仕事場にしている。
海の見える丘の上にあるこの洋館は、かつては名のあるひとの住処だったらしいが、今はシェアハウスになっている。住人はふたりしかいない。
庭にまかれる水のにおいがした。春に焼けた草花をはっとさせるにおいだ。
単調な仕事に飽きてきた俺のまなこをも。
結婚が一生に一度、と言う時代ではなくなり、結婚式の開催もそう多くはない昨今でも、ひとはウェディングドレスを着たいものらしい。そして、
純白にこだわらないひとも増えてきた。何しろ、中古のウェディングドレスが5000円ほどで買える時代だ。
写真と言う前時代的なものに思い出を残したいと思うのも、昔とそう変わらない。
変わりつづける世の中に、変わらないものがある。
たとえば、この、100年休まずにガタガタガタガタガタな黒いミシンとか。
きみと俺との関係、とか。
純白のウェディングドレスを縫った。ふっくらとすそが広がるタイプの。
白いレース糸でで長そでと胸の飾りを編んだ。こちらも80年くらい休まずにな銀色のレース針で。半年くらいかけて。
目がぱりぱりに乾いて痛んだので、あたたかいブルーベリーティーを飲み、あたたかいタオルで目を休めながら作業をした。
きみはブルーベリーに似ている。酸っぱくて、甘くて、ちょっとビター。
水音の代わりにはなうたが聞こえはじめた。高音部分が少しずれている。だが、心地よい。
足踏みミシンのリズムに合わない。不完全なハーモニー。だから、愛しい。
その香りが可視化されたような、木の床にうつる幾何学模様。レースの模様だ。
物陰の足踏みミシンの音。ガタガタガタガタガタガタ、と床がふるえる。幾何学模様の床が。
「世界でひとつだけのウェディングドレスを」と言う依頼を受け、俺はこの古びた白亜の洋館の一室を仕事場にしている。
海の見える丘の上にあるこの洋館は、かつては名のあるひとの住処だったらしいが、今はシェアハウスになっている。住人はふたりしかいない。
庭にまかれる水のにおいがした。春に焼けた草花をはっとさせるにおいだ。
単調な仕事に飽きてきた俺のまなこをも。
結婚が一生に一度、と言う時代ではなくなり、結婚式の開催もそう多くはない昨今でも、ひとはウェディングドレスを着たいものらしい。そして、
純白にこだわらないひとも増えてきた。何しろ、中古のウェディングドレスが5000円ほどで買える時代だ。
写真と言う前時代的なものに思い出を残したいと思うのも、昔とそう変わらない。
変わりつづける世の中に、変わらないものがある。
たとえば、この、100年休まずにガタガタガタガタガタな黒いミシンとか。
きみと俺との関係、とか。
純白のウェディングドレスを縫った。ふっくらとすそが広がるタイプの。
白いレース糸でで長そでと胸の飾りを編んだ。こちらも80年くらい休まずにな銀色のレース針で。半年くらいかけて。
目がぱりぱりに乾いて痛んだので、あたたかいブルーベリーティーを飲み、あたたかいタオルで目を休めながら作業をした。
きみはブルーベリーに似ている。酸っぱくて、甘くて、ちょっとビター。
水音の代わりにはなうたが聞こえはじめた。高音部分が少しずれている。だが、心地よい。
足踏みミシンのリズムに合わない。不完全なハーモニー。だから、愛しい。
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