指輪
臆病だった。
「そばにいたい」と言えなかった。
卒業式の日、作り笑顔で別れた。
きっとあなたは、何もかもを知っていた。
あなたより自分を守りたいわたし。あなたより自分が可愛いわたしを。

まだ冬の名残を残す風が、流せない涙をぬぐって消えた。

あなたより将来を取った。進学・就職、そして恋。
いくつになっても、わたしは何も言えない子のままだった。
あなたが好きだった。
あなたのそばは居心地が良かった。ずっとそばにいたかった。
(わたしは、
何も言えないわたしを取った)
(生きやすいわたしを取った)

宣伝カーの声。観光客の声。子どもたちの声。
冷たい街にさざめく声。誰もわたしに何も言わない。
通りすぎていく。
(わたしも誰にも何も言わない)
こうやって、

少しずつ、少しずつ、
誰かが何も言わずに、わたしの元から去っていく。
それが「老い」。
今日来なかったあの子も。きっと。
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