火の中の救世主
その頃、悠真は消防署で待機していた。

夜間勤務の日だったため、同僚たちと軽く談笑している最中だった。

「火災発生！現場は○○町○丁目！」


無線から緊急出動要請が流れる。
その瞬間、悠真は表情を引き締め、防火衣（ぼうかい）を素早く身につけた。

「行くぞ！」

隊員たちと共に出動する消防車。
そのサイレン音が夜空に響き渡る中、悠真は無線で現場状況を確認していた。

「木造アパート2階部分から出火。逃げ遅れた住民あり」

その言葉に悠真は心を引き締める。
しかし、現場に近づくにつれ、一抹の不安が胸をよぎった。「まさか……美咲じゃないよな」




アパート内はすでに濃い煙で視界が遮られていた。
美咲は口元をハンカチで覆いながら、

「誰かいますか？」と声を張り上げる。
しかし返事はない。

階段を上りながら、彼女は必死に辺りを探した。


そして2階奥の部屋から微かな音――女性の声が聞こえた。

「ここです……助けて……」

ドア越しに聞こえる弱々しい声。　
その声に導かれるように、美咲はドアノブを掴んだ。

しかし熱さで手を引っ込める。　

「熱い……でも！」

意を決してタオルで手を覆いながらドアノブを回すと、中には意識朦朧とした女性が倒れていた。

「大丈夫ですか！」と声をかけながら女性に肩を貸し、その場から連れ出そうとする。



しかし――



「ゴホッ……ゴホッ……」


煙を吸い込んだせいか、美咲自身も意識が遠のき始めていた。

「ここまで来たのに……ダメ……」そう呟きながら、

その場に倒れ込んだ。
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