魔法通りの魔法を使わない時計屋さん
Ⅺ
「どんな魔法かわからないので何が起きるかわかりません、少し離れていてください」
準備を終えたリリカは、魔法陣の中央に置かれた金の懐中時計に指先で触れた。
彼は言われた通りにカウンターから少し離れてからごくりと喉を鳴らす。
リリカは一度深呼吸をしながら目を閉じ、次に開いたときには魔女の目つきになっていた。
「――魔女リリカ・ウェルガーの名において命じます。誰その呪縛から解かれ、私に従いなさい」
カタカタと懐中時計が揺れ出したのをピゲはカウンターの端っこからおっかなびっくり見ていた。
「解!」
パンっと短く破裂音がした。
「――え?」
それとほぼ同時、リリカが発した小さな声をピゲの耳は確かに聞き取っていた。
「……解け、ました」
「もう? 早いね」
感心したように戻ってきた彼の前で、リリカはそばに置いておいた「こじ開け」を手にした。
「開けてみます」
「あぁ」
ヘラの先を隙間に差し込んで押し上げると、パカっと今度は難なく裏蓋は外れた。
中はとても綺麗だった。とても大切に扱われてきたのがピゲから見てもわかる。
その裏蓋を裏返して、リリカは「あっ」と声を上げた。
「じぃじ……」
「え?」
「じぃじの、ウェルガーのサインが」
「ということは、この時計を前に修理したのは君のおじいさんだったのか」
「……」