魔法通りの魔法を使わない時計屋さん
リリカの様子がどこかおかしい。じぃじのサインを見て喜ぶどころか、先ほどから何かを必死に思い出そうとしているように見える。
「それは素敵な偶然だね」
「偶然……じゃ、ない」
「うん?」
リリカは止まった懐中時計をじっと見下ろしながら、言った。
「この時計に魔法をかけたの、私です」
「え?」
「え?」
ピゲと彼の声がまたぴったりと重なる。
リリカの震える指がもう一度懐中時計に触れた、その途端だった。
『……君が一人前の魔女になった頃に、また直してもらいに来るよ……』
そんな優し気な男の人の声が耳に響いた。
「この声は」
彼が、瞳を大きくして虚空を見つめる。
『……その頃、君が本当に強い魔女になっていたら、守ってもらいたい方がいるんだ……』
そこで、その不思議な声は途切れた。
「そうだ……すっかり忘れてた」
リリカは懐中時計の向こう側を見つめるように、淡々と言葉を紡いでいく。
「私、まだ小さかった頃に、じぃじに構ってほしくてお客さんの時計に魔法をかけてしまって」
勿論、ピゲも知らない話だ。
「でも私、まだ魔法の解き方がわからなくて、わんわん泣いてじぃじを困らせて……」
リリカは今にも泣きだしそうな顔で続ける。