魔法通りの魔法を使わない時計屋さん
「そのお客さんが私に言ったんです。『君が一人前の魔女になった頃に、また直してもらいに来るよ』って……私、今の今まですっかり忘れてた」
「そのお客が、僕の先生だったわけか」
「え?」

 リリカが顔を上げると、彼は口元に手を当て、してやられたというような顔をしていた。
 そしてふっと優しく微笑んでリリカを見つめた。

「きっと先生は、僕と君を引き合わせたかったんだ」

 わけがわからないという顔でリリカが眉を寄せる。ピゲも一緒に首を傾げた。
 そんな中彼はひとりで「そうか、そうか」とおかしそうに笑っていた。

「直りそうかい? その時計」
「え? あ、はい。とても綺麗なので、お掃除して新しい油を差せばすぐに動きだすと思います」
「見ていていいかな。君のおじいさん譲りの魔法を」

 リリカは目を大きく見開いた後で頬を少し染め、頷いた。

「はい!」



 中の部品を一度全てバラバラに外し、その小さな小さな部品に付着した古い油をひとつひとつ洗浄、再び組み立て新しい油を差す。
 その細かく根気のいる作業を、彼はまるで子供のように目を輝かせながら見つめていた。

「本当に、魔法のようだね」

 そう口にした彼にリリカは小さく笑った。
 そんなふたりを眺めながら、ピゲはまるで昔のじぃじとリリカを見ているようだと思った。


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