魔術罠師と猛犬娘/~と犬魔法ete
魔術罠師と猛犬娘 ※新作・表題作
獣エルフの犬鳴ルパ、魔術罠師トラに出会う(1)
1
よろしい、ならばハンストだ!
覚悟を決めたあーしは、四本足の麗しくも疲れ果てた肢体をだらりと投げ出し、檻の中の地面にゴロリと横になった。
鉄格子の向こう遠くで、で人間の山賊たちやゴブリンたちは酒を飲んで騒いでいる。どこかで先に捕らえられて連れてこられ、無法者たちから集団で乱暴される女たちの悲鳴も聡くなった耳に聞こえて、少々は気まずく後ろめたい。幸いにも、捕まって陵辱されている中に幼い少女はいないようだった。
レイプされるのが嫌だったから、絶対に変身を解除しないと心に決めていた。狩りで山歩きしているところをつかまり、ちょうど動物の格好だったから、捕まえた側も私が本物の動物なのか、変身しているだけの女なのか確証が持てないようだった。ここはあくまでもしらばっくれて、動物のふりをして隙をうかがうが吉だろう。
そして自分自身はこの変身した「牝狼」の姿であれば、生存力・耐久力とスタミナや栄養効率も高まっている。二三日くらいであったらば、どうにか平気で生きていられることだろう。だが嗅覚が鋭くなるものだから、魔王派の山賊ギャングたちのキャンプの臭さがやるせない。
第一、あまりヘタなことをしたり運が悪ければ、またしても殴る蹴るのリンチされたり本格的な拷問でもされたらかなわない。ここはできるだけおとなしくして間を持たせ、助けがくるまで時間を稼ぐしかない。
だが、助けが来る保障はない。
あくまでも幸運に恵まれたなら、でしかない。
もし限界になれば、獣エルフの女の姿に戻って命乞いでもするしかないけれど、その場合にどういう運命に見舞われるかは、考えるどころかちょっと脳裏をよぎるだけでも怖気だって吐き気すらしてくる。いっそ自殺したり抵抗して死んだ方がましというものかもしれない。
不安と不快さで気が狂いそうだ。できるだけ何も考えず、生存エネルギーを温存しよう。
(我が弟レト。強く生きろよ)
なんとなく死を覚悟してしまい、弟の犬鳴(いなき)レトリバリクスに心の中で遺言じみた言葉が浮かぶ。同じ「獣エルフ」の姉弟なのだが、弟はレトリバーじみたドロップイヤー(垂れ耳)で温厚な性格だった。そのくせ、変身した姿はあたし(犬鳴ルパ)のような逃走・追跡とサバイバルに向いた四足獣でなく、むしろ戦闘に向いた二足歩行の獣人で「狼男ならぬレトリバー男」。本気であればそこそこ強いはずだがあいつは心根が優しく、見た目でも舐められる(しかもまだほんの少年だ)。
姉が狩りから帰らず行方不明で何事かあったと気づけば、仲間と一緒に助けに来てくれる可能性もなくはない。だがこの一団のキャンプは五十人はくだらないし、たとえ探しに来て発見しても一人二人で正面から救出するのは難しいだろうし、弟までが無理をして捕まる恐れもある。
(やっぱり、あーしの命運もここまでか?)
そんなふうに思うと、胸に迫る。
少し年の離れた弟レトのことも心配だが、自分自身の人生についても無念すぎる。まだ恋人や夫もいない。いくら気が強く気位高くて「孤高の麗しき牝狼」を気取っていても、心の中で「いつかは」と期待していなかったと言えば嘘になる。王子様や騎士とまでは言わずとも、満足させてくれる素敵な誰かを待ち望んで齢は二十歳を超えた。
村を魔王軍に焼け出されて小集団で隠れ住み、狩りに出たところを偶然に出くわした一派の無法者たち(斥候とは名ばかりの山賊)に捕まった。せっかく頑張って仕留めた鹿も横取りされて、あいつらの晩餐になっている(他の哀れな囚われの女たちにも振る舞われて腹を満たしている様子であるのは、せめてもの救いではあるだろうか?)。
やがて、諦めかけたあーしの前に現れたのは、キラキラした王子様でも白馬の騎士でもなく、人間の「魔術罠師」だった。
よろしい、ならばハンストだ!
覚悟を決めたあーしは、四本足の麗しくも疲れ果てた肢体をだらりと投げ出し、檻の中の地面にゴロリと横になった。
鉄格子の向こう遠くで、で人間の山賊たちやゴブリンたちは酒を飲んで騒いでいる。どこかで先に捕らえられて連れてこられ、無法者たちから集団で乱暴される女たちの悲鳴も聡くなった耳に聞こえて、少々は気まずく後ろめたい。幸いにも、捕まって陵辱されている中に幼い少女はいないようだった。
レイプされるのが嫌だったから、絶対に変身を解除しないと心に決めていた。狩りで山歩きしているところをつかまり、ちょうど動物の格好だったから、捕まえた側も私が本物の動物なのか、変身しているだけの女なのか確証が持てないようだった。ここはあくまでもしらばっくれて、動物のふりをして隙をうかがうが吉だろう。
そして自分自身はこの変身した「牝狼」の姿であれば、生存力・耐久力とスタミナや栄養効率も高まっている。二三日くらいであったらば、どうにか平気で生きていられることだろう。だが嗅覚が鋭くなるものだから、魔王派の山賊ギャングたちのキャンプの臭さがやるせない。
第一、あまりヘタなことをしたり運が悪ければ、またしても殴る蹴るのリンチされたり本格的な拷問でもされたらかなわない。ここはできるだけおとなしくして間を持たせ、助けがくるまで時間を稼ぐしかない。
だが、助けが来る保障はない。
あくまでも幸運に恵まれたなら、でしかない。
もし限界になれば、獣エルフの女の姿に戻って命乞いでもするしかないけれど、その場合にどういう運命に見舞われるかは、考えるどころかちょっと脳裏をよぎるだけでも怖気だって吐き気すらしてくる。いっそ自殺したり抵抗して死んだ方がましというものかもしれない。
不安と不快さで気が狂いそうだ。できるだけ何も考えず、生存エネルギーを温存しよう。
(我が弟レト。強く生きろよ)
なんとなく死を覚悟してしまい、弟の犬鳴(いなき)レトリバリクスに心の中で遺言じみた言葉が浮かぶ。同じ「獣エルフ」の姉弟なのだが、弟はレトリバーじみたドロップイヤー(垂れ耳)で温厚な性格だった。そのくせ、変身した姿はあたし(犬鳴ルパ)のような逃走・追跡とサバイバルに向いた四足獣でなく、むしろ戦闘に向いた二足歩行の獣人で「狼男ならぬレトリバー男」。本気であればそこそこ強いはずだがあいつは心根が優しく、見た目でも舐められる(しかもまだほんの少年だ)。
姉が狩りから帰らず行方不明で何事かあったと気づけば、仲間と一緒に助けに来てくれる可能性もなくはない。だがこの一団のキャンプは五十人はくだらないし、たとえ探しに来て発見しても一人二人で正面から救出するのは難しいだろうし、弟までが無理をして捕まる恐れもある。
(やっぱり、あーしの命運もここまでか?)
そんなふうに思うと、胸に迫る。
少し年の離れた弟レトのことも心配だが、自分自身の人生についても無念すぎる。まだ恋人や夫もいない。いくら気が強く気位高くて「孤高の麗しき牝狼」を気取っていても、心の中で「いつかは」と期待していなかったと言えば嘘になる。王子様や騎士とまでは言わずとも、満足させてくれる素敵な誰かを待ち望んで齢は二十歳を超えた。
村を魔王軍に焼け出されて小集団で隠れ住み、狩りに出たところを偶然に出くわした一派の無法者たち(斥候とは名ばかりの山賊)に捕まった。せっかく頑張って仕留めた鹿も横取りされて、あいつらの晩餐になっている(他の哀れな囚われの女たちにも振る舞われて腹を満たしている様子であるのは、せめてもの救いではあるだろうか?)。
やがて、諦めかけたあーしの前に現れたのは、キラキラした王子様でも白馬の騎士でもなく、人間の「魔術罠師」だった。