魔術罠師と猛犬娘/~と犬魔法ete
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(この人と、出会ってラッキーってことなのかな?)

 あたし(犬鳴ルパ)は、ジロッと横目で魔術罠師の青年を見やった。
 トラのことは嫌いではないように思うし、むしろ好きになるような理由もある。危機から救出して貰ったのでもあるし、あの態度からすると、もし結婚しても酷く扱われるとまでは考えにくい。魔術者の優良スキル持ちであったし、魔族と敵対したり戦闘的であることも(人によっては懸念事項にもなり得るだろうけれど)、ルパの価値観からすればどちらかと言えばプラス評価だった。
 それだけに、大ぽかやらかしたと臍をかむ。
 いくらなんだって、あの初対面はない。油断して裸で山賊のテントを物色中に、無防備な尻からいきなり不意打ちで話しかけられ、女としてあんまりにも無様過ぎる姿をさらしてしまった。

(うあああー! あーしだって、あれはないよー!)

 思い出すだけで頬が火照ってくるようだ。
 さすがに恥ずかしい。頭がカンカンになって湯気が出てきそうで、あいつの顔をまともに見ることすらきつい。あんなのだったら、まだ狼の姿で戯れている最中にいきなり変身解除して、捨て身のサプライズしてやった方が良かったけれど、全ては後の祭り。
 それでも、あのあとの夜道を二人で逃げるときには、手を引いたり腰を支えてエスコートしてくれた。魔術で高速移動のホバーリングで飛ぶような勢いだったから、獣の姿で走るのと変わりない早さだった。「邪魔じゃない? あたしは自分で走れば大丈夫」と言うと「軽いものだし、君が嫌でなければ」と言ってくれて。あのとき思わず左右に頭をブンブン振って「嫌じゃない」と、少し声が高くなってしまっていたのを思い出す。
 あたしにとってはあんなこんなの気持ちになるのは珍しい。裸や恥ずかしいところを見られたりしても、不快や嫌でこそあっても怒りが勝ったり平然としているくらいだろう。それがあのときばかりは純粋に「恥ずかしい」だけだった。
 守ってエスコートされながらどこか夢見心地だったし、「このまま何されてもいいや」みたいな気分にまでなっていた。キスしたときには頭の中が真っ白になったし、背筋に甘い電気が走ったみたいで、トラが途中でやめたことを(気遣いや警戒だと察しつつ)少し恨めしかったほどだ。

(あーしって、あいつのことが好きになっちゃったんだろうか?)

 ひょっとしたら女としての利口な本能のなせるわざなのだろうか(直感的に自分にとって良い相手だと無意識や身体が反応しているのか)。恋愛には縁がなくて疎い狼娘だから、なんだか自分でもよくわからない。でも全然に嫌でも不快でもない。
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