魔術罠師と猛犬娘/~と犬魔法ete

犬鳴姉弟の新生活inリベリオ屯田兵村

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 いくら森があるからって、板や丸木や柱が自分で歩いて来るわけがないし、粘土があっても煉瓦やタイルが湧き出してくるわけでもない。それらを得るには労働や対価が必要なわけで、しばしば木や粘土の資材も所有権・取得権が争われるほどだ。
 早いところが、ルパたちの元村人・現避難民で移住者のための家や畑はまだ準備されておらず、これからこのリベリオ屯田兵村の指揮者・指導者たちと図って采配して貰わねばならない。
 幸いに十人あまりで、二三の家族とルパ・レトの姉弟だけだから人数も多くはないし、わずかばかりとはいえ炊事道具やテントといった生活道具やら、あの山賊から手に入れた資金もある。

「トラ、こっちは上首尾だったよ」

 森林エルフのマタギ(狩人)のキョウコさんはにっこりと、トラや連れられてきた一行に微笑んだ。彼女はルパとは面識や付き合いがある狩猟仲間の先輩だったのだが、魔王軍がこの地方に入り込んで暴れ回って村々を破壊してから、ずっと会っていなかった。
 ルパにとっては友人との再会を喜ぶところだ。

「あの山賊のキャンプあとに回収チームを贈って、残っていた物資は良さげなものは根こそぎさ!」

 誇らしげに白い歯を見せるキョウコ。

「お見事」

 トラは素直に賢い味方に労をねぎらい賞賛した。彼としてもただ敵を倒しただけよりも、それによって獲得物があったほうが嬉しいだろう。
 視線を辿ってふと見れば、解体された大型テントが五六個くらい山積みになっており、穀物や芋類の入った大袋をいっぱいに載せた荷車もある。衣類や武器を載せた荷車もあって、都合満載が四台分。傍らに地面に直に積んで置いてある分からしたら、二往復くらいやったに違いない。この調子だったら、貴金属や金目のものも大喜びで抜け目なく拾い集めて奪ってきたことだろう。
 考えようでは「狩る側」としては、山賊や犯罪者を相手にするほどに良い餌食はいないだろう。倒して根こそぎしても報復や制裁の理由付けがあれば咎められないし、悪い奴はあぶく銭を溜め込んでいたりするものだから。

「キョウコもいたんだ! 良かった!」

「オオッ! ルパちゃんも! ゴメンね、探して見つけるの遅くなって。村人の生き残りもぼちぼち捜索してはいるんだけどさ」

 東洋風の狩人着物に毛皮の肩掛けしたキョウコとハグして、ついつい涙ぐんでしまう。狼女と山姥の目にも涙というものだ。

「ううん、エルフの魔法使いの爺さんが隠密の結界張って隠れてたから、裏目に出ちゃったかもねえ。みんな魔王軍に連れ去られたり殺されたりだから、あーしらみたいに隠れてる人もいるのかも」

「大変だったね。一緒にがんばろ」

「うん!」

 魔王軍と手下の山賊やゴブリンたちが我が物顔で徘徊するようになってから、村や町ごと劫掠されて住民が捕虜として奴隷に連れ去られるようなケースが多発している。それによって農業や生産活動がうまくできなくなり(襲撃の危険があるだけでも厄介だ)、平和な環境のように無事に働けなくなって経済的にも崩壊してきている。人間が主体の国や領域でも、特に魔族勢力と盗賊・ギャングに浸透された地域や辺境で直に脅かされ続ける地方は悲惨だった。
 ルパたちの村でも、早い時期から離れた田畑がほったらかしになりがちになって牧畜もやりづらくなり(襲われて家畜の横取されたり番の牧童・娘が誘拐されたりするため)、村周囲の防備強化にもさらに労力が割かれて負担となり、拉致や虐殺されたり兵役・警備にも人員を割かねばならないために労働力も損なわれて不足し、時代情勢の変化で同じ地域であるにも関わらず昔よりも生産効率は大幅に低下していた。懸命に生産した農業漁業や牧畜の収穫物も工房で作り出した物資も略奪されたり、必要上にやむを得ない税金徴収や腐敗利得者たちの餌食になる。せっかく建築した家や町も、正常に機能すれば製品と利益を生んだはずの工房や船舶も燃やされたり破壊される。平和な過去の通常なら普通に働けば衣食住足りてとりあえず生活できたはずが、今ではそれすら難しくなってきている。
 なにしろ大鬼のオークやモンスターと下級魔族や深遠エルフ(アビスエルフ、魔族陣営寄りの亜人種族)などもいるため、味方の住民にエルフの魔法使いやドワーフの戦士が何人かいても十分には対抗しきれない。魔王軍の山賊(人間や亜人のギャング!)とゴブリンなどのモンスターが取引先の付き合いがあった大きな町を滅茶苦茶にしたせいで農産物も売れなくなるし、村落単位では製造が不可能や非効率な、必要とされる道具や物資の購入も難しくなっていた(価格が暴騰したり品物そのものがない)。町や村というのは一見はバラバラに存在しているようであっても、商取引や物資の融通や人の行き来でつながって連携や相互に援護している「持ちつ持たれつ」のことも多いから、余所がやられることでもしばしば間接的にダメージを受けて追い込まれていく。
 最後にはついにこの辺り一帯の村々と町が収穫期を見計らって襲撃され、住民の多数がつかまって奴隷や食用に連れ去られ、本年の収穫物は大部分が丸ごと横領されて、生き残りはみんな散り散りに逃げて隠れ住むサバイバル生活を余儀なくされていた。
 真冬になる前に見つけて救助して貰えたことはのっけの幸いだった。よく冗談がてら「町に行って身体でも売るか、酒場で裸で踊るくらいしかない」などと女たち同士で話して、暗い気持ちになったものだった。このご時世で男たちの日雇い仕事や丁稚奉公で得られる賃金も儚いものだろう。路頭に迷う未婚の娘と独身の女にとって一番に現実的でメリットが大きいのは、手頃で都合の良さげな男に嫁ぐこと(安易に相手構わず身売りするよりは良いし、男性の家族にもベターな境遇や仕事が得られるチャンスもあるから)。
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