魔術罠師と猛犬娘/~と犬魔法ete
3
 やはり頼りになるのは、エルフやドワーフの職人芸である「技能魔術」だ。単にcraft(クラフト)と呼べば技能魔術を指すほどで、攻撃や防御・回復などの魔術ではmagica(マギカ)やmagico(マギコ)などの呼び方がされることが多い。
 それは農耕や建築や鍛冶場などで使われる特殊技能であって、人間よりもはるかに効率的だったり不可能なレベルの仕事をやってみせる。
 今、雑木伐採で燃料や資材になる木材を採取し終えた荒れ地に魔術での火をつけているのもまさにそれ。いわゆる「野焼き」や「焼き畑」と呼ばれる農業や林業の手法だが、雑草を焼いて片付けて灰が肥料になるだけでなく、土の質がより農業向けに変化する。ただしこのやり方では通常は山火事になって燃え広がるリスクがあるのだが、エルフたちの技能魔術ならば範囲を限って不必要な延焼を防いだり、より安全で高い効率で土壌改善の効果が得られる。

「ここら辺があんたらの最初の畑。種は入村のサービスで配布があるから、ひとまず冬蒔きの小麦と野菜の作付けでもしたら? ここからあっちの方向に空いたときに開墾して増やしてもいいし。それからあっちの方が草地になってるから、ヤギの放牧でエサ」

「ありがとうございます」

 キョウコの説明に、一緒に逃れてきた農家の家族たちは、手を合わせんばかりに感謝している。百姓にとっては世話してきて生活基盤でもある農地や家畜を奪われることは、物心両面での計り知れない打撃で、ずっと「どうやって生きていけばいいのか」と気落ちしていたのだ。
 家長の老人も生き返ったような顔で土に跪いて、土地の精霊に額づいて祈っている。

「土地の精霊様や。これからわたしどもがお世話します。どうか慈悲とお恵みを」

 ルパとレトの姉弟も、一緒に膝をついて、手を組み合わせて祈った。彼らは主に害獣の対処や警備パトロールと狩猟・防衛が担当ではあるけれども、空いたときには農作業を手伝う。他人事ではないのだ。
 傍にいたキョウコも両手を土に着けて、微笑みを浮かべている。森林エルフのマタギ(狩人)である彼女の宗教感覚もまた、この人間の百姓たちに近い。

「あんたらは土地を敬うから、きっと土地の精霊様も、天の神様も見ててくださるよ。あの性根も腐った魔族どもなんか、奪った畑をろくに世話もせずにいるんだから、飢えて死ねばいいんだ!」

「全くだ!」

 農民の老人と家族たちは、大きく頷いた。
 それから家だ。
 ルパが山賊討伐を手伝ったり、逃げていた村人たちを誘導してきたことへの報酬も兼ねて、家屋建築の資材と助力が与えられた。
 まず地ならしして礎石を置き、主な太い柱を立てる。トラが手伝ってくれて、あの家長の老人も儀式的に手を添えた。横木を置いて組み合わせ、木釘と接着剤と魔術で補強していく。こんな建築作業だって、技能魔術の助けがなかったらきっと何日もかかってしまうだろう。
 夕方には柱の木組みができて目処がたつ。

「これだったら二家族で半分ずつで区切って、うまく住めそうですね。でも、家畜用の小屋は外付けにしましょう。竃を置いたりするんだから、中にスペース作るのは厳しい」

「壁と屋根は明日にしよう。昨晩の長屋の空き部屋で、ちょっと狭いがゆっくりしてくれ」

「あーしたちは、トラの小屋でもう一泊して、その、しばらくいてほんとにいいの?」

 ルパはトラの袖を、そっと引っ張った。
 家を建て始めるときに「家族持ちを優先でいい」と発案して、姉弟二人ならどうにかなると。長屋の空き部屋でも良かったし、トラと同居ならばなおさらに良かった。彼の家は小さな丸木小屋で、武器・道具類や書物と資料を溜め込んだ倉庫に生活スペースとロフトが付随している感じ。でもルパやレトにとっては嬉しい境遇。

「前の菜園、広げてハーブでも植えようかな?」

 話している横で、レトがうずうずしている。昨晩に、知らない土地や地方についての話をトラから聞かされて、少年は好奇心と興味で目を輝かせていた。トラは魔術学院時代には付属の図書館でそんな本ばかり読んでいたのだそうだ。
< 13 / 75 >

この作品をシェア

pagetop