魔術罠師と猛犬娘/~と犬魔法ete
4
獣エルフは変身能力があって身体能力も高い反面で、魔術の資質では森林エルフ(一般的ポピュラーなイメージ)や多くの混沌エルフ(アビスエルフ)より劣っている。ドワーフが腕力が強く技能魔術に秀でているのと引き換えに、普通の攻撃や防御の魔法能力に乏しいのと同じようなもの。
とはいえ、一つ二つくらいはさほど強くない魔法が使えるし、魔術耐性も高い。
「ぼくのはこんなのです」
夕食後のお茶のときにレトは、手のひらにオーラを形成して見せる。それは半透明の「仔犬」の形になっている。
「このぼく固有の魔法技を「こいにゅー」と名付けています。これをぶつけると、一時的にしばらくの間だけ戦意喪失します。人によって効果が違うみたいですが、和んでしまって幸福感に包まれるみたいで。弱回復とか精神安定の効果があるようで、鬱病の人や悲しんでいる人に投げてみたら、ちょっとよりもっと回復したみたいでした」
「んー、やってみる」
「あい? 良いんですか?」
「いいよ、害はなさそうだし」
「あい、それではどうぞ」
レトが手から鷹でも放つがごとく、投げのポーズでトラにぶつける。透明オーラの「仔犬」は空中で二回転して、トラの顔面に張り付き抱きつく。
そのまま五秒くらい経過。
すると、トラは突然に立ち上がって「いにゅ、いにゅ」と踊りはじめる。
(え?)
摩訶不思議な振り付けで踊る間に、トラの手袋をした右腕が外れてコロリと落ちた。姉と弟は顔を見合わせていたが、ルパが拾い上げると木製の義手だった。
(義手だったの? 全然気がつかなかった)
なんとなく「何か仕込んでいる」とは臭いで感じていたが、まるで本物の手のように動いていたものだから(魔術なのだろうけれど)まさか偽物の腕だとは思わなかった。
謎のダンスはおよそ三分ほど続きて、仔犬が霧散すると我にかえった。
「んー? 何だったんだろう? ものすごくハッピーな気持ちだった気がする」
「踊ってましたよ?」
「そうなの? マジで?」
目を白黒させて狐につままれたような顔をしているあたり、どうやら記憶までぶっ飛んでしまっているようだった。
「これ、錯乱を誘発できるのか?」
「いいえ。ふつーはただ立ちつくしたり座り込むくらいですよ。踊り出したのはトラくらいかと」
「そうなのか? ふーん」
そこでトラは自分のあごを撫でようとして、ようやく右腕が肘の下からなくなっていることにきがついたようだった。ルパがおずおずと拾った義手を差し出す。
「戦いで? やっぱり強く魔族と」
「人間。味方のはずの新興貴族とやらから無礼討ちとやらだって。せっかく馳せ参じたのに閲兵で「右手を出せ」と言われて、そうしたら居合い斬りでいきなりスパーン! あんときゃー血が噴き出して悶絶だったなー。
わけがわからなかったが、魔術者が剣を持っていたのが気に食わなかったんだってさ。魔術者殺しの剣で、回復魔法が効かなくって切れた腕がくっつかないし再生もできない。どうせ面白い魔法道具を手に入れたから、試し斬りにやってみたかったのとか、裏切りや腐敗で無茶苦茶やっている魔術者協会への恨みややっかみもあったのかなー?」
(な、何を言っているの?)
ルパは固まっていて、トラは崩れた笑顔で頬を引き攣らせ、頭をかいて「ヒヒヒ」と笑った。
「あいつも頭おかしかったらしいが、そいつに平身低頭している善良な人たちもずいぶんだし。一瞬、「こいつらは俺を嵌めやがったのか?」とか疑ったけど、あの人たちは本気で悪気がなくてアクシデントだったらしいのさー。キチガイ成金貴族の不慮の行動でパニクって悲惨な顔で困り果ててやがるの、でも逆らえない。だったら不条理だから、俺があいつらに襲いかかって殺すわけにもいかねーじゃーん!
なんか、どうすりゃいいのか困った困った。うかうかしてたらまだ治ってないうちに周りから「早く逃げろ」と言われて、「訓練用の的」にされて山狩りされて、相手を二人くらい大怪我させて片方は再起不能で自殺。やり合ってる途中でお互いに話がおかしいと気がついて止めたから良かったけど、恨みもない軍人戦士と不毛な殺し合いになりかけてさー。その命令した偉いさんが収賄で告発されて逃げてるし、「こんなことばっかりやっているから人類は危機になってるんだ!」って、その軍人さんたち泣いてたぞ。
俺だって頭おかしい方なんだろうし。あれから山狩りゲームでオモチャにされて、ちょっと、もっともっと変な感じになったなんだ。おかしくなっちゃったんだろなー。今の世の中って政治家も商売人もギャングの仲間や買収だらけだし、魔術協会も組織を挙げて裏切りしてるでしょ? なんなんだろ、まともな奴が一人もいないんじゃね? アハハ。俺さ、クリュエルもだけど、魔術者協会から「反逆者」なんだってさー」
そんなふうにつらつらと語るトラの目は、暗く焦点が虚空に据わったようになっていて、どこか狂気の片鱗を感じさせた。彼は彼で、心に闇を抱えていたりもするようだった。
獣エルフは変身能力があって身体能力も高い反面で、魔術の資質では森林エルフ(一般的ポピュラーなイメージ)や多くの混沌エルフ(アビスエルフ)より劣っている。ドワーフが腕力が強く技能魔術に秀でているのと引き換えに、普通の攻撃や防御の魔法能力に乏しいのと同じようなもの。
とはいえ、一つ二つくらいはさほど強くない魔法が使えるし、魔術耐性も高い。
「ぼくのはこんなのです」
夕食後のお茶のときにレトは、手のひらにオーラを形成して見せる。それは半透明の「仔犬」の形になっている。
「このぼく固有の魔法技を「こいにゅー」と名付けています。これをぶつけると、一時的にしばらくの間だけ戦意喪失します。人によって効果が違うみたいですが、和んでしまって幸福感に包まれるみたいで。弱回復とか精神安定の効果があるようで、鬱病の人や悲しんでいる人に投げてみたら、ちょっとよりもっと回復したみたいでした」
「んー、やってみる」
「あい? 良いんですか?」
「いいよ、害はなさそうだし」
「あい、それではどうぞ」
レトが手から鷹でも放つがごとく、投げのポーズでトラにぶつける。透明オーラの「仔犬」は空中で二回転して、トラの顔面に張り付き抱きつく。
そのまま五秒くらい経過。
すると、トラは突然に立ち上がって「いにゅ、いにゅ」と踊りはじめる。
(え?)
摩訶不思議な振り付けで踊る間に、トラの手袋をした右腕が外れてコロリと落ちた。姉と弟は顔を見合わせていたが、ルパが拾い上げると木製の義手だった。
(義手だったの? 全然気がつかなかった)
なんとなく「何か仕込んでいる」とは臭いで感じていたが、まるで本物の手のように動いていたものだから(魔術なのだろうけれど)まさか偽物の腕だとは思わなかった。
謎のダンスはおよそ三分ほど続きて、仔犬が霧散すると我にかえった。
「んー? 何だったんだろう? ものすごくハッピーな気持ちだった気がする」
「踊ってましたよ?」
「そうなの? マジで?」
目を白黒させて狐につままれたような顔をしているあたり、どうやら記憶までぶっ飛んでしまっているようだった。
「これ、錯乱を誘発できるのか?」
「いいえ。ふつーはただ立ちつくしたり座り込むくらいですよ。踊り出したのはトラくらいかと」
「そうなのか? ふーん」
そこでトラは自分のあごを撫でようとして、ようやく右腕が肘の下からなくなっていることにきがついたようだった。ルパがおずおずと拾った義手を差し出す。
「戦いで? やっぱり強く魔族と」
「人間。味方のはずの新興貴族とやらから無礼討ちとやらだって。せっかく馳せ参じたのに閲兵で「右手を出せ」と言われて、そうしたら居合い斬りでいきなりスパーン! あんときゃー血が噴き出して悶絶だったなー。
わけがわからなかったが、魔術者が剣を持っていたのが気に食わなかったんだってさ。魔術者殺しの剣で、回復魔法が効かなくって切れた腕がくっつかないし再生もできない。どうせ面白い魔法道具を手に入れたから、試し斬りにやってみたかったのとか、裏切りや腐敗で無茶苦茶やっている魔術者協会への恨みややっかみもあったのかなー?」
(な、何を言っているの?)
ルパは固まっていて、トラは崩れた笑顔で頬を引き攣らせ、頭をかいて「ヒヒヒ」と笑った。
「あいつも頭おかしかったらしいが、そいつに平身低頭している善良な人たちもずいぶんだし。一瞬、「こいつらは俺を嵌めやがったのか?」とか疑ったけど、あの人たちは本気で悪気がなくてアクシデントだったらしいのさー。キチガイ成金貴族の不慮の行動でパニクって悲惨な顔で困り果ててやがるの、でも逆らえない。だったら不条理だから、俺があいつらに襲いかかって殺すわけにもいかねーじゃーん!
なんか、どうすりゃいいのか困った困った。うかうかしてたらまだ治ってないうちに周りから「早く逃げろ」と言われて、「訓練用の的」にされて山狩りされて、相手を二人くらい大怪我させて片方は再起不能で自殺。やり合ってる途中でお互いに話がおかしいと気がついて止めたから良かったけど、恨みもない軍人戦士と不毛な殺し合いになりかけてさー。その命令した偉いさんが収賄で告発されて逃げてるし、「こんなことばっかりやっているから人類は危機になってるんだ!」って、その軍人さんたち泣いてたぞ。
俺だって頭おかしい方なんだろうし。あれから山狩りゲームでオモチャにされて、ちょっと、もっともっと変な感じになったなんだ。おかしくなっちゃったんだろなー。今の世の中って政治家も商売人もギャングの仲間や買収だらけだし、魔術協会も組織を挙げて裏切りしてるでしょ? なんなんだろ、まともな奴が一人もいないんじゃね? アハハ。俺さ、クリュエルもだけど、魔術者協会から「反逆者」なんだってさー」
そんなふうにつらつらと語るトラの目は、暗く焦点が虚空に据わったようになっていて、どこか狂気の片鱗を感じさせた。彼は彼で、心に闇を抱えていたりもするようだった。