魔術罠師と猛犬娘/~と犬魔法ete
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その日の午後に、あの「悪い奴ではないけど曲者」の、あの女郎(めろう)がこちらの区画にやってきた。別区画のリーダーであるサキだ。
「サキュバス姫騎士、サキちゃん参上っ! ピンクパタタ(ピンク色の特殊品種のジャガイモ)の種芋を持ってきたぴょん。哀れな新参者に入村祝いのプレゼント、受けとるが良いぴょん」
やや幼さの印象が残るブロンドで色白の美女は、両手でウサギの耳っぽいジェスチャーして左右に光り輝く束ね髪と麗しい腰を揺らした。美しく色っぽく、ふしだらさと清純さが同居しているような不思議な魅力を放っている。
「これぞ魔族の代用食にすらもなる美味なるスペシャルな天恵のお芋、この美味しさがわからない魔族はアホ。きっと人間のお百姓さんだったら素晴らしさをわかってくれるはず」
魔族たちは、人肉からの酵素をとらないと力や健康状態を維持できない(魔力や身体能力で優れる反面で、日光や銀などへの強度のアレルギー体質でもある)。ただし「代用食」になる野菜や家畜も実は存在しているのだが、魔族たちにとっては「低級な食べ物」と見做されることが多い。
「ロード(御屋形様・領主殿)、どちらに置きましょうか?」
部下の若者たちが訊ね、サキは新築が成った二家族の百姓家屋を見渡した。
「入り口の内側に置いてあげて。それは芽が出ているから、切って灰を塗って植えるべし。こっちが試食する分だよん♪」
「茹でてあります。晩御飯にどうぞ。どちらに置けば良いでしょう? お皿かお鍋を出してくださいませんか?」
配下の若い娘が鍋に入れた茹でジャガイモを差し出して、年配の主婦は「ありがとうな、ご丁寧に」と感謝している。
サキは、返礼のための貨幣か何かを目で探して考えている主婦に、ひょいと小さな皿を差し出して言った。
「お塩か調味料を少し頂戴。ご挨拶の儀式ぴょん」
もちろん、僅かばかりの塩や調味料なんか、サキたちは他人から貰わなくても持っているし、たとえ買っても僅かな金額でしかない。入村して三日目の避難民に無理な金額や品物を要求する気もなく、むしろ挨拶のコミュニケーションや儀礼的な振る舞いで友好の意思表示でもあった。
「ああ、はい。なにかと良くして頂いて」
「だったら銅貨を一枚寄越すぴょん。神話の質実剛健なスパルテ・ラケダイモの町では銅が基本通貨で財宝だったとか、前に大昔の本で読んだよ。祠に新しい住民が来た報告のお供え物にするし」
金貨・銀貨に比べれば、銅貨は格段に安い。
サキは笑顔で差し出された銅貨を、両手に広げたハンカチで受けとって会釈した。
「私の野望は。そのピンクパタタを広めて、魔族にも人間にも腹いっぱい食わせること。百姓冥利に覚えておいて、我が望みに力を貸すぴょん!」
そしてサキは去り際、ふとトラとルパを見やってからかうように言った。
「聞いたわー。トラトラも、とーとー若い女を捕まえて囲ったか? え? 女の愛はトラバサミの罠より強いって察して、警戒して面倒がってたあなたにも、ついに避けられぬ運命かあ? 私の千里眼な魔術だったらラブゲージが丸見えなんだから、相思相愛は時間の問題かなー」
ものすごく面白そうにニヤニヤとトラに笑いかけ、ルパを見て親指を立て、その指でトラを指してヒソヒソと女の内緒話するみたいに、ふざけた口調で聞こえよがしに言った。
「こやつを仕留めるとは、お主も優秀な狩人ぴょんと、キョウコちゃんも褒めとったよのう。こいつ、性欲だけは人並みにあるのに女や恋愛を面倒がる難物の阿呆ちゃんでさー。
狂った戦闘狂で私のことも「いざとなったら殺すつもり」だからって、いつぞやにせっかくお誘いして水向けてやっても冷たーく拒否ったのに、やっぱり耐えられなくなって町の街娼なんかと寝てしまうような哀れな生き物よ。あなたがマンツーマンで女の有り難さと恐ろしさを思い知らせるといいわ。とうとう年貢の納め時なんだねえ。いつかトラトラやあなた浮気するんだったら、私もいつでも応相談だから」
「ふーん?」
ルパはトラを三白眼で横目した。嫉妬と非難の入り混じった眼差しと表情で。
どうやら彼らにも色々と事情はあるらしかったのだが、内心では「サキのお誘いを拒否した」ことでは少しだけ安堵してもいた。
だってサキは目も覚めるような美人だったし(同性ですら色っぽさを感じるし、純粋に綺麗だとため息が出そうになる)、ふざけた態度とは裏腹に本性ではすごく賢いように察した。善良な性格ではあると感じるのだが、どこか苦悩や暗さを押さえ込んで隠しているようにも薄々に思う(たぶん心優しくて繊細で聡明で、表面だけおバカでお気楽そうに取り繕っている?)。
もしも女性として魅力を競ったら、ルパは正直なところサキには絶対に勝てる気がしない(男の十人中で八人までは、恋人や愛人としての二択だったらサキを選ぶことだろうとすら思う)。トラはいったん拒否したらしいが(警戒心や思慮のなせるわざ?)、必ずしも憎んだり全く嫌っているわけではなさそうでもあった。
そしてサキはきっとすさまじいほどに淫乱で、大勢の男と日常的に寝ているし、女ですら対象らしいのが、臭いでなんとなくわかる。それに魔族との混血で、おそらく本当に人肉をほとんど全く食べていない。「サキュバス姫騎士」を名乗っているのに偽りはなかった。
その日の午後に、あの「悪い奴ではないけど曲者」の、あの女郎(めろう)がこちらの区画にやってきた。別区画のリーダーであるサキだ。
「サキュバス姫騎士、サキちゃん参上っ! ピンクパタタ(ピンク色の特殊品種のジャガイモ)の種芋を持ってきたぴょん。哀れな新参者に入村祝いのプレゼント、受けとるが良いぴょん」
やや幼さの印象が残るブロンドで色白の美女は、両手でウサギの耳っぽいジェスチャーして左右に光り輝く束ね髪と麗しい腰を揺らした。美しく色っぽく、ふしだらさと清純さが同居しているような不思議な魅力を放っている。
「これぞ魔族の代用食にすらもなる美味なるスペシャルな天恵のお芋、この美味しさがわからない魔族はアホ。きっと人間のお百姓さんだったら素晴らしさをわかってくれるはず」
魔族たちは、人肉からの酵素をとらないと力や健康状態を維持できない(魔力や身体能力で優れる反面で、日光や銀などへの強度のアレルギー体質でもある)。ただし「代用食」になる野菜や家畜も実は存在しているのだが、魔族たちにとっては「低級な食べ物」と見做されることが多い。
「ロード(御屋形様・領主殿)、どちらに置きましょうか?」
部下の若者たちが訊ね、サキは新築が成った二家族の百姓家屋を見渡した。
「入り口の内側に置いてあげて。それは芽が出ているから、切って灰を塗って植えるべし。こっちが試食する分だよん♪」
「茹でてあります。晩御飯にどうぞ。どちらに置けば良いでしょう? お皿かお鍋を出してくださいませんか?」
配下の若い娘が鍋に入れた茹でジャガイモを差し出して、年配の主婦は「ありがとうな、ご丁寧に」と感謝している。
サキは、返礼のための貨幣か何かを目で探して考えている主婦に、ひょいと小さな皿を差し出して言った。
「お塩か調味料を少し頂戴。ご挨拶の儀式ぴょん」
もちろん、僅かばかりの塩や調味料なんか、サキたちは他人から貰わなくても持っているし、たとえ買っても僅かな金額でしかない。入村して三日目の避難民に無理な金額や品物を要求する気もなく、むしろ挨拶のコミュニケーションや儀礼的な振る舞いで友好の意思表示でもあった。
「ああ、はい。なにかと良くして頂いて」
「だったら銅貨を一枚寄越すぴょん。神話の質実剛健なスパルテ・ラケダイモの町では銅が基本通貨で財宝だったとか、前に大昔の本で読んだよ。祠に新しい住民が来た報告のお供え物にするし」
金貨・銀貨に比べれば、銅貨は格段に安い。
サキは笑顔で差し出された銅貨を、両手に広げたハンカチで受けとって会釈した。
「私の野望は。そのピンクパタタを広めて、魔族にも人間にも腹いっぱい食わせること。百姓冥利に覚えておいて、我が望みに力を貸すぴょん!」
そしてサキは去り際、ふとトラとルパを見やってからかうように言った。
「聞いたわー。トラトラも、とーとー若い女を捕まえて囲ったか? え? 女の愛はトラバサミの罠より強いって察して、警戒して面倒がってたあなたにも、ついに避けられぬ運命かあ? 私の千里眼な魔術だったらラブゲージが丸見えなんだから、相思相愛は時間の問題かなー」
ものすごく面白そうにニヤニヤとトラに笑いかけ、ルパを見て親指を立て、その指でトラを指してヒソヒソと女の内緒話するみたいに、ふざけた口調で聞こえよがしに言った。
「こやつを仕留めるとは、お主も優秀な狩人ぴょんと、キョウコちゃんも褒めとったよのう。こいつ、性欲だけは人並みにあるのに女や恋愛を面倒がる難物の阿呆ちゃんでさー。
狂った戦闘狂で私のことも「いざとなったら殺すつもり」だからって、いつぞやにせっかくお誘いして水向けてやっても冷たーく拒否ったのに、やっぱり耐えられなくなって町の街娼なんかと寝てしまうような哀れな生き物よ。あなたがマンツーマンで女の有り難さと恐ろしさを思い知らせるといいわ。とうとう年貢の納め時なんだねえ。いつかトラトラやあなた浮気するんだったら、私もいつでも応相談だから」
「ふーん?」
ルパはトラを三白眼で横目した。嫉妬と非難の入り混じった眼差しと表情で。
どうやら彼らにも色々と事情はあるらしかったのだが、内心では「サキのお誘いを拒否した」ことでは少しだけ安堵してもいた。
だってサキは目も覚めるような美人だったし(同性ですら色っぽさを感じるし、純粋に綺麗だとため息が出そうになる)、ふざけた態度とは裏腹に本性ではすごく賢いように察した。善良な性格ではあると感じるのだが、どこか苦悩や暗さを押さえ込んで隠しているようにも薄々に思う(たぶん心優しくて繊細で聡明で、表面だけおバカでお気楽そうに取り繕っている?)。
もしも女性として魅力を競ったら、ルパは正直なところサキには絶対に勝てる気がしない(男の十人中で八人までは、恋人や愛人としての二択だったらサキを選ぶことだろうとすら思う)。トラはいったん拒否したらしいが(警戒心や思慮のなせるわざ?)、必ずしも憎んだり全く嫌っているわけではなさそうでもあった。
そしてサキはきっとすさまじいほどに淫乱で、大勢の男と日常的に寝ているし、女ですら対象らしいのが、臭いでなんとなくわかる。それに魔族との混血で、おそらく本当に人肉をほとんど全く食べていない。「サキュバス姫騎士」を名乗っているのに偽りはなかった。