魔術罠師と猛犬娘/~と犬魔法ete
3
「スパルテ・ラケダイモってのは、有史以前の残存資料に出てくる、古代中の古代のグレコ(ギリシャ?)地方とやらの都市国家だ。古すぎて、それがおとぎ話や神話伝承の類なのか、それとも本当にかつて実在していたとしても、いったいどこにあったのかもわからない」
トラはシチューのスプーンを玩びながら、夕食の談話でレトの「スパルテ・ラケダイモって何ですか?」という質問に答えて説明していた。
「その都市国家は軍国主義で喧嘩が強くて、他の都市国家との盟主になって、アーシアからの百万の大軍の侵略を退けたって話。断片的に残っている資料や古文書からすると、原典は戦記ものだろうとされている。記述の細部が細かかったり書き方の文章からすると、叙事詩ではなく歴史記述の本だったらしい。それでその国では、あんまり拝金主義になりすぎると堕落したり弱体化するからって、金や銀でなくて銅を個人財産の貨幣に使っていたそうだ。二大巨頭で商業主義の味方の国と勢力争いになって勝ったけれど、結局はその同士討ちと内戦でグレコ地方全体が荒廃して破滅になったって」
「よくこんなことを知ってますね。ぼくなんて、グレコとかスパルテとか、初めて聞くような話ばっかりです」
興味津々になっているレトは興奮気味に聞き入っている。たぶんトラが喋っている内容はでまかせの嘘八百でなく、かつて魔術学院の書庫で知った事柄なのだろう。
「あいつ(サキ)はああ見えても、伯爵家の令嬢だから、そういう学や教養もあるのさ。魔術薬学も詳しくって、ここではそっちの権威や責任者。正真正銘の貴族、ただし魔族の、だ。母親が人間の混血で、人を殺して人肉を喰うのはあんまり好きでないらしくって、それで親しい人間の領民つれて逃げてきたんだってさ」
「そうだったんですねえ、なるほど。只者じゃないとは思ったんですけど」
リベリオ屯田兵村は複数の区画とグループに分かれており、村長格の「原人騎士」クリュエル・サトーを総指導者に、幹部と代表者たちの合議制になっている。区長・グループ長とでも言える者やエルフの長老格(キョウコは孫娘で助役や代理)や、トラのような戦闘員の筆頭格・隊長たちなどなど。その中でも「サキュバス姫」のサキと率いられるグループは特異な存在らしい。
サキは魔族の混血ハーフで父親は魔族の伯爵(中級魔王)である。母親が人間であるために人肉食を好まず、吸血やサキュバス行為で必要な酵素を補充していて、代用食の特殊な野菜を好んで常食しているのだそうだ。
そのために魔族の支配領域下で被支配者として家畜や隷属民扱いの人間たちと仲が良く、ついに魔族の横暴に耐えかねて一緒に脱走してきたという。しかし、魔族配下の人間が悪行や犯罪することがままあるため、サキのグループも最初は頭から信用されていたわけではない。今では警戒されつつもある程度まで信頼されているものの、かなり異色の集団ではあった。
(ますます勝てる気がしない)
あーし(ルパ)は漠然と敗北感に打ちのめされながら黙って聞いていた。貴族の娘で美人でミラクルなサキに比べたら自分なんかは獣エルフの村娘でしかない。しかもトラは、何か考えがあってのことだろうが、そのサキのお気軽な誘惑を拒否したらしい。だとしたらあたしは?
(それにサキさんに「いざとなったら殺すつもり」だなんて。迷いが出ないように、日頃から距離をとってるってこと? だとしたら、あーしのこともそういう目で見てるの?)
「あの人のことを「殺す」なんて物騒なことも行ってきましたけど、それって「もしも裏切ったら」ってことなんですか?」
我が弟のレトが、はからずも質問してくれた。
「念のための用心だけど、そうなる可能性は低いとは思ってる。あいつは一妻多夫でグループの男のほとんどは望めば愛人。人間の妻を貰うのは禁止してないし、グループ全体と結婚や愛人関係みたいで特殊なんだよ。一番の理由は「面倒そうだから」が本当かな」
「トラは、女の人と付き合ったり恋人とかは?」
「ない、皆無。だって女だって人間だから、そこいらの男より人間として中身が上等なんてもんかよって。サキとかは凄いしちょっとは尊敬するけど、でもあいつは複雑で面倒すぎだし、ちゃんと愛し合ってる親衛隊軍団がいるから放っておけって。
どっちかって言えば俺のは人間嫌いの一種みたいもんさ。それに、あんまり深い仲になったりして面倒見てやれるかってのもあるし」
とりあえず納得しながらも、あたしには不安と不満は去らない。すぐにでも愛してくれたらオーケーするだろうに意地悪だ。トラに襲われるのは構わないが、よその女にとられるのはものすごく嫌だった(彼を自分のものといつの間にか思うようになっているらしい)。
勢いと予約の気分で一回だけキスして、様子見して考えているのだろうか。こうして弟と一緒にとはいえ同居の仮住まいさせてくれることからすれば、嫌われてはいないだろうし気があるってことなのか(サキの「相思相愛は時間の問題」という見透かしたような予言を信じたい)。
「スパルテ・ラケダイモってのは、有史以前の残存資料に出てくる、古代中の古代のグレコ(ギリシャ?)地方とやらの都市国家だ。古すぎて、それがおとぎ話や神話伝承の類なのか、それとも本当にかつて実在していたとしても、いったいどこにあったのかもわからない」
トラはシチューのスプーンを玩びながら、夕食の談話でレトの「スパルテ・ラケダイモって何ですか?」という質問に答えて説明していた。
「その都市国家は軍国主義で喧嘩が強くて、他の都市国家との盟主になって、アーシアからの百万の大軍の侵略を退けたって話。断片的に残っている資料や古文書からすると、原典は戦記ものだろうとされている。記述の細部が細かかったり書き方の文章からすると、叙事詩ではなく歴史記述の本だったらしい。それでその国では、あんまり拝金主義になりすぎると堕落したり弱体化するからって、金や銀でなくて銅を個人財産の貨幣に使っていたそうだ。二大巨頭で商業主義の味方の国と勢力争いになって勝ったけれど、結局はその同士討ちと内戦でグレコ地方全体が荒廃して破滅になったって」
「よくこんなことを知ってますね。ぼくなんて、グレコとかスパルテとか、初めて聞くような話ばっかりです」
興味津々になっているレトは興奮気味に聞き入っている。たぶんトラが喋っている内容はでまかせの嘘八百でなく、かつて魔術学院の書庫で知った事柄なのだろう。
「あいつ(サキ)はああ見えても、伯爵家の令嬢だから、そういう学や教養もあるのさ。魔術薬学も詳しくって、ここではそっちの権威や責任者。正真正銘の貴族、ただし魔族の、だ。母親が人間の混血で、人を殺して人肉を喰うのはあんまり好きでないらしくって、それで親しい人間の領民つれて逃げてきたんだってさ」
「そうだったんですねえ、なるほど。只者じゃないとは思ったんですけど」
リベリオ屯田兵村は複数の区画とグループに分かれており、村長格の「原人騎士」クリュエル・サトーを総指導者に、幹部と代表者たちの合議制になっている。区長・グループ長とでも言える者やエルフの長老格(キョウコは孫娘で助役や代理)や、トラのような戦闘員の筆頭格・隊長たちなどなど。その中でも「サキュバス姫」のサキと率いられるグループは特異な存在らしい。
サキは魔族の混血ハーフで父親は魔族の伯爵(中級魔王)である。母親が人間であるために人肉食を好まず、吸血やサキュバス行為で必要な酵素を補充していて、代用食の特殊な野菜を好んで常食しているのだそうだ。
そのために魔族の支配領域下で被支配者として家畜や隷属民扱いの人間たちと仲が良く、ついに魔族の横暴に耐えかねて一緒に脱走してきたという。しかし、魔族配下の人間が悪行や犯罪することがままあるため、サキのグループも最初は頭から信用されていたわけではない。今では警戒されつつもある程度まで信頼されているものの、かなり異色の集団ではあった。
(ますます勝てる気がしない)
あーし(ルパ)は漠然と敗北感に打ちのめされながら黙って聞いていた。貴族の娘で美人でミラクルなサキに比べたら自分なんかは獣エルフの村娘でしかない。しかもトラは、何か考えがあってのことだろうが、そのサキのお気軽な誘惑を拒否したらしい。だとしたらあたしは?
(それにサキさんに「いざとなったら殺すつもり」だなんて。迷いが出ないように、日頃から距離をとってるってこと? だとしたら、あーしのこともそういう目で見てるの?)
「あの人のことを「殺す」なんて物騒なことも行ってきましたけど、それって「もしも裏切ったら」ってことなんですか?」
我が弟のレトが、はからずも質問してくれた。
「念のための用心だけど、そうなる可能性は低いとは思ってる。あいつは一妻多夫でグループの男のほとんどは望めば愛人。人間の妻を貰うのは禁止してないし、グループ全体と結婚や愛人関係みたいで特殊なんだよ。一番の理由は「面倒そうだから」が本当かな」
「トラは、女の人と付き合ったり恋人とかは?」
「ない、皆無。だって女だって人間だから、そこいらの男より人間として中身が上等なんてもんかよって。サキとかは凄いしちょっとは尊敬するけど、でもあいつは複雑で面倒すぎだし、ちゃんと愛し合ってる親衛隊軍団がいるから放っておけって。
どっちかって言えば俺のは人間嫌いの一種みたいもんさ。それに、あんまり深い仲になったりして面倒見てやれるかってのもあるし」
とりあえず納得しながらも、あたしには不安と不満は去らない。すぐにでも愛してくれたらオーケーするだろうに意地悪だ。トラに襲われるのは構わないが、よその女にとられるのはものすごく嫌だった(彼を自分のものといつの間にか思うようになっているらしい)。
勢いと予約の気分で一回だけキスして、様子見して考えているのだろうか。こうして弟と一緒にとはいえ同居の仮住まいさせてくれることからすれば、嫌われてはいないだろうし気があるってことなのか(サキの「相思相愛は時間の問題」という見透かしたような予言を信じたい)。