魔術罠師と猛犬娘/~と犬魔法ete
魔術罠師トラの帰還
1
魔族の騎士たち二人は存外にあっけなかった。
まず、トラのフランベルク剣を見て「男爵殺しだ」と怯えだし、片方が逃走を図った。しかし、周囲には対魔族の魔術トラップが仕掛けられていて、レーザー照射で両足を切り離されて転倒する。魔術で回復することは出来るのだが、十数秒間の時間と距離が離れていたことが命取りだった。
もしもちゃんと二人で連携して向かってきていたならば、トラだってもう少しは苦戦したはずなのに、慌てて治癒を優先して援護射撃すらしようとしない。トラの前に残っていたもう一人も、一対一ではあまりにも分が悪かった。しかもトラの剣は魔術防御や回復を弱体化や無効化する。切り倒すのに十秒もかからず、首をはねてとどめを刺す。
次いでもう一人を片付けて終わりだった。
(実戦を積んで、俺も強くなったのか)
そんなとき、横からパチパチと拍手があった。
知っている少女だ(囮役になっていた彼女)。
いつぞやに、欺されて戦闘になって重症を負わせて再起不能にした戦士の妹。あのあとに、一回顔を合わせたときには、危うく狂乱した彼女から刃物で刺されそうになって逃げ惑った。
「お兄ちゃんの仇、とってくれたんだ。こっちも上首尾だよ。前は刺そうとしてゴメン」
その後ろの路地から、知っている戦士が二人姿を現す。一人は切り離した頭をぶら下げ、もう一人は首無し死体を引きずっている。
「よう! 手伝おうかと思ったが、もうやっつけちまったのか!」
「おっそろしい野郎だな!」
二人は武骨ながら満面の笑顔になっている。
トラは少女を指差した。
「この子まで、巻き込んだのは賢くないぞ」
危険でもあるし、あとで狙われて報復される恐れもないとは言えない。
だがそれは杞憂のようだった。
「事情が変わったのさ。夜明け前には、親魔族の政治屋や政商は一斉逮捕になる。もうそろそろ別の部隊が、ギャングの掃討を始めるはずだ」
「羊毛は? 魔族領土からの輸入に頼ってて、経済理由の依存でずるずるきてたんじゃないのか。毛織物産業が潰れたら、この町は立ちゆかないから魔族ギャングを取り締まれないと聞いていたが?」
「替わりの購入先がいくつか見つかった。抜かりはないさ、しばらくは切り換えでゴタゴタするかもだが。お前のところのリベリオ村にも、羊毛生産を持ちかけてある」
「そうだったのか!」
政治腐敗からの圧力やギャングの恫喝だけではなく、経済的な理由もまた、由々しい情勢が続いている大きな理由ではある。しかし魔族と暗黒の力の跋扈と専横が度を過ぎてしまい、揺りもどしと軋轢が世界中で起きている時勢だった。
2
翌朝、門戸を開いてその日の業務を開始した魔術協会の分室事務所に、トラバサミの鉄仮面の男が現れた。両手にぶら下げた、血の付いた魔族の生首を受付テーブルにドンッと置いて「クラス6への昇格を申請する」と。
すぐ横の待合席でティーカップを傾けていた、白い司教服のハイエルフは目を丸くして、次いで小さく笑い、それからニッコリ微笑んだ(見た目は若いが二百歳近いらしい)。ジェス教会の幹部で魔術協会からもクラス3を贈られているマルクート師だ。彼がクリュエルに連絡して、持ちかけて呼び出したようなものだった(基本が反魔族のジェス教会からすれば、反魔族レジスタンスに手をかすのも道理ではある)。
ジェス教会は、世界の創造主(デミウルゴス)の唯一の王子(転生や同一視もされる)で世界の終末に人類を救済するとされるジェスを信仰している宗教グループだ。ジェスは特に医療や技術を司るとされ、十二神の筆頭とされるために信仰者も多く、教会そのものも医療・治癒や防御結界の独自の魔術体系と組織を持っている。
「おやおや。事務の方を驚かせていますよ」
マルクート師は立ち上がって、トラの近くにやって来た。「ビビらせでもしないとこいつらは」と小声で答えたトラに、マルクート師はさもおかしげで笑みを堪えて平静を装った。高徳で人間が出来ている彼だって昨今の魔術協会の腐りぶりや人類への裏切り行為を快くは思っていない(どんな聖人君子でも、事によっては怒るときは怒る)。
「あなたは魔族の男爵を倒した方ですね? クリュエル君から聞いてます、トラ君ですね? 昨晩にはまた魔族の騎士を二人倒したとか? そちらについてはこの、その物証(生首)と、こちらの軍の方々も証言が頂けるはず。男爵について証明する書類も、必要ならば教会からあとで送ります」
「はあ」
「ですから、クラス6の登録認定には十分と思われるのですが。何か不都合があるのかな、と」
「い、いえ。そんなことは」
「わかりました。それではこちらの教会の資料でも、クラス6魔術者のリストに名前を入れておきましょう」
穏やかな物腰ながら、魔術協会が揉み消したり、さしたる理由なしに昇格登録を抹消すれば、ジェス教会から「問い合わせ」するぞという念押しと脅しだった。その場合には反魔族の政治家などからも批判や説明要求が来るだろう。
そこまでやらないと信用できないのが今の魔術協会、情けないにもほどがあった。
魔族の騎士たち二人は存外にあっけなかった。
まず、トラのフランベルク剣を見て「男爵殺しだ」と怯えだし、片方が逃走を図った。しかし、周囲には対魔族の魔術トラップが仕掛けられていて、レーザー照射で両足を切り離されて転倒する。魔術で回復することは出来るのだが、十数秒間の時間と距離が離れていたことが命取りだった。
もしもちゃんと二人で連携して向かってきていたならば、トラだってもう少しは苦戦したはずなのに、慌てて治癒を優先して援護射撃すらしようとしない。トラの前に残っていたもう一人も、一対一ではあまりにも分が悪かった。しかもトラの剣は魔術防御や回復を弱体化や無効化する。切り倒すのに十秒もかからず、首をはねてとどめを刺す。
次いでもう一人を片付けて終わりだった。
(実戦を積んで、俺も強くなったのか)
そんなとき、横からパチパチと拍手があった。
知っている少女だ(囮役になっていた彼女)。
いつぞやに、欺されて戦闘になって重症を負わせて再起不能にした戦士の妹。あのあとに、一回顔を合わせたときには、危うく狂乱した彼女から刃物で刺されそうになって逃げ惑った。
「お兄ちゃんの仇、とってくれたんだ。こっちも上首尾だよ。前は刺そうとしてゴメン」
その後ろの路地から、知っている戦士が二人姿を現す。一人は切り離した頭をぶら下げ、もう一人は首無し死体を引きずっている。
「よう! 手伝おうかと思ったが、もうやっつけちまったのか!」
「おっそろしい野郎だな!」
二人は武骨ながら満面の笑顔になっている。
トラは少女を指差した。
「この子まで、巻き込んだのは賢くないぞ」
危険でもあるし、あとで狙われて報復される恐れもないとは言えない。
だがそれは杞憂のようだった。
「事情が変わったのさ。夜明け前には、親魔族の政治屋や政商は一斉逮捕になる。もうそろそろ別の部隊が、ギャングの掃討を始めるはずだ」
「羊毛は? 魔族領土からの輸入に頼ってて、経済理由の依存でずるずるきてたんじゃないのか。毛織物産業が潰れたら、この町は立ちゆかないから魔族ギャングを取り締まれないと聞いていたが?」
「替わりの購入先がいくつか見つかった。抜かりはないさ、しばらくは切り換えでゴタゴタするかもだが。お前のところのリベリオ村にも、羊毛生産を持ちかけてある」
「そうだったのか!」
政治腐敗からの圧力やギャングの恫喝だけではなく、経済的な理由もまた、由々しい情勢が続いている大きな理由ではある。しかし魔族と暗黒の力の跋扈と専横が度を過ぎてしまい、揺りもどしと軋轢が世界中で起きている時勢だった。
2
翌朝、門戸を開いてその日の業務を開始した魔術協会の分室事務所に、トラバサミの鉄仮面の男が現れた。両手にぶら下げた、血の付いた魔族の生首を受付テーブルにドンッと置いて「クラス6への昇格を申請する」と。
すぐ横の待合席でティーカップを傾けていた、白い司教服のハイエルフは目を丸くして、次いで小さく笑い、それからニッコリ微笑んだ(見た目は若いが二百歳近いらしい)。ジェス教会の幹部で魔術協会からもクラス3を贈られているマルクート師だ。彼がクリュエルに連絡して、持ちかけて呼び出したようなものだった(基本が反魔族のジェス教会からすれば、反魔族レジスタンスに手をかすのも道理ではある)。
ジェス教会は、世界の創造主(デミウルゴス)の唯一の王子(転生や同一視もされる)で世界の終末に人類を救済するとされるジェスを信仰している宗教グループだ。ジェスは特に医療や技術を司るとされ、十二神の筆頭とされるために信仰者も多く、教会そのものも医療・治癒や防御結界の独自の魔術体系と組織を持っている。
「おやおや。事務の方を驚かせていますよ」
マルクート師は立ち上がって、トラの近くにやって来た。「ビビらせでもしないとこいつらは」と小声で答えたトラに、マルクート師はさもおかしげで笑みを堪えて平静を装った。高徳で人間が出来ている彼だって昨今の魔術協会の腐りぶりや人類への裏切り行為を快くは思っていない(どんな聖人君子でも、事によっては怒るときは怒る)。
「あなたは魔族の男爵を倒した方ですね? クリュエル君から聞いてます、トラ君ですね? 昨晩にはまた魔族の騎士を二人倒したとか? そちらについてはこの、その物証(生首)と、こちらの軍の方々も証言が頂けるはず。男爵について証明する書類も、必要ならば教会からあとで送ります」
「はあ」
「ですから、クラス6の登録認定には十分と思われるのですが。何か不都合があるのかな、と」
「い、いえ。そんなことは」
「わかりました。それではこちらの教会の資料でも、クラス6魔術者のリストに名前を入れておきましょう」
穏やかな物腰ながら、魔術協会が揉み消したり、さしたる理由なしに昇格登録を抹消すれば、ジェス教会から「問い合わせ」するぞという念押しと脅しだった。その場合には反魔族の政治家などからも批判や説明要求が来るだろう。
そこまでやらないと信用できないのが今の魔術協会、情けないにもほどがあった。