魔術罠師と猛犬娘/~と犬魔法ete
6
 路地裏に入り込んだ娘と魔族の騎士を、待っていたのは二人の男たちだった。服装こそ一般人の様相だったが、雰囲気とオーラで戦士だと魔族は見抜く。それもチンピラや用心棒の類ではなく、訓練を積んだ軍の戦士団の。
 娘は転げるように走り出して、二人の戦士の方に逃げて、後ろに隠れる。

「よくやった。怪我はないな」

「外にもう二人いるよ。どうする?」

 どうやら「囮の釣り餌」作戦だったらしい。
 常日頃から魔族や親魔族の傘下ギャングの横暴を快く思っていない軍の戦士たちが、一昨日に発生した猟奇事件から勘づいて、自分たちの手で片付けるために罠を張ったのか。
 あの被害犠牲者の女性は肛門周りを切って直腸と大腸を引っ張り出され、汚れた中身がこぼれないように直腸の端をきつく縛られていた。尿道には接着剤が注ぎ込まれて、膀胱はパンパンになっていた。潰れた片方の眼窩の奥には精液がこびりついて、女性器は汚され破れて血が流れ出し、子宮と胃袋も破裂していた。乳房を噛み千切られ切り取られて、切り開かれた腹からは肝臓や卵巣が引っ張り出されていて、太い血管は魔術で焼いて止血されていた。太股や腕の肉も切り取られて大雑把に止血されていて、発見時にはまだ生きていてピクピク動いていたそうだ。最期の「魔族が」との末期の言葉がなくても、およそ犯人は察しがつくというものだ。

(警報は鳴らしておいたよ)

 囮の娘がボーガンを手に取りながら、味方の戦士二人に囁く。さっき魔族騎士たちに声をかけられたときに、魔法石器で味方に「警報」を通知してあるから、じきに他の場所にいる仲間の戦士たちも集まってくるはずだった。散らばっているとはいえ、魔族騎士たちの投宿先がわかっていたから、張っているのはこの周辺の近くだし到着に時間はかかるまい。


7
「間に合って良かった」

 二人の魔族騎士を十人あまりの軍の戦士たちが取り囲んで、あたりから邪魔になる人が入り込まないようにしている。
 進み出たのは、今しがたに駆けつけてきた魔術罠師トラ。彼らとは全く知らないわけではなく、これまでにも何人かとは面識がある。

「もう一人は? 戦士二人で大丈夫なのか?」

「ご心配なく。我々の中で一番の手練れです。あなたと戦った、あの二人です。スパイの偽情報で欺されてあんなことになって、あいつらだってずっと雪辱をうかがってたんですよ」

「そうだったのか」

 彼らは戦士として「闘気術」を習得している上級者であるし、それ以後にも修練していたならば、二人なら魔族の騎士の一人くらい造作もなく討ち取ることだろう。ひょっとしたら正面からの接近戦ならば、二人でかからずとも一対一でも案外に勝てるかもしれない。
 トラからすれば因果を感じさせるような、感慨深い再会だった。
 かつて、負傷したトラを狙って山狩りがけしかけられたことがある。命令した上官は魔族ギャングに買収された汚職スパイで、逃亡する前に(反魔族派に)不和と相互不信の種を蒔こうとしたらしい。目論見どおりに、死に物狂いのトラと三人の戦士たちは山中で死闘となり、うち一人は回復不能な重体となった(それもなりゆきで彼らと戦っていたトラがやったことだ)。途中で「どうにも話がおかしい」と気がついて戦闘を中止したのが不幸中の幸いだった(あのまま戦っていればトラが敗北するか、少なくとも無事では済まなかっただろう)。

「あなたはお一人で良いんですか? 敵は下っ端でなく騎士ですし、二人を同時に相手にするのでは」

「いや、むしろそれがいいんだ。このままクラス6を申請するつもりだから、第三者として戦闘の目撃証言をお願いしたい。一般人が近寄って巻き添え食わないようにも見張っていて欲しい」

「わかりました。頑張ってください!」

 魔族殺しで手を下せば、それだけで親魔族派から恨みを買う(あとでギャングから報復されて殺される恐れもあった)。こうして協力しているだけでも、しがない軍人である彼ら本人たちにとってはリスクを背負う行動なのだから、ここで直接に殺害の下手人になるのは自分一人で十分だ(他の二人は猛者だから、もう一人の敵を任せておく)。
 トラはフランベルク剣を抜き放つ。それは以前に魔族の男爵を殺して奪った戦利品だった。
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