超人気美男子に目を付けられた平凡女は平和な寮生活を求めて苦悩する

第13話 司書は若者の恋愛に助言する

「おや?またテラスが来たぞ」

バタバタと走ってくるテラスに気付いたカイ。
つい先ほど「ミユウさんに言われて来た」とテラスはカウンターへ戻ってきたが、カイには実に覚えがないため「何かの間違いかな?」と、テラスを仕事に戻したばかりだ。

「テラス、どうした?」

カウンターにたどり着いたテラスに声をかけるカイ。
テラスの顔が赤いのは走ってきたからだろうか。

「撤退してきました…」

意味が良くわからない。

「何かあったのか?」

「いや…邪魔しちゃ悪いと思って」

「話が見えないぞ。ちゃんと説明してくれ」

「え~と…」

こういうことはむやみに人に話して良いのだろうか?
一瞬躊躇するテラス。

「またアンセムと何かあったのか?」

「いや~、私は何もないんですけど…」

「なんだ、歯切れが悪いなぁ…ん?」

カイは奥から歩いてくるミユウに気付いた。

「テラス、彼女がミユウだな?」

聞かれて振り向くテラス。

「はい。そうですよ」

フワフワと重力を感じさせないミユウは、2人の視線に気付いて優雅に会釈をし、図書館を出て行ってしまった。

「彼女とアンセムが何かしてたのか?」

カイはミユウからアンセムはいるかと尋ねられたのだ。

「え~と、その~、チューって」

なんか言うのも恥ずかしいテラスである。
テラスの言い方に吹き出すカイ。
だいたいのことを理解する。

「はっはっは。それでテラスは逃げ出してきたのか」

「あの2人特別な関係だって聞いたから、邪魔したらいけないでしょう?」

カイはテラスをまじまじと見る。
テラスの口調や表情から、嫉妬や焦りは欠片ほども感じられない。

「特別って、アンセムから聞いたのか?」

テラスは首を振った。

「アイリから聞きました。みんな知ってるみたいですよ」

「そうか?それならアンセムは見合いしないと思うけどなぁ」

「あ、そう言えば、そんなことをアンセムが言ってました」

「なんだ、じゃぁ特別でもなんでもないだろう」

「ええー、でもあの2人すっごいお似合いじゃないですか。思わず見入っちゃいましたもん。
美しい2人だと、いちゃいちゃしてても美しいですよね~」

「ぶは!」

カイは大爆笑。

「今何か面白かったですか?」

「いや~、テラスの感性が面白すぎた」

「なんか、失礼な言い方だな」

「嫉妬とか、そういうの全然ないのか?」

わかっていて一応聞いてみる。

「嫉妬?どうしてですか?」

本気でわからないテラス。

「まぁそういう反応だわな」

これがテラスだ。

「普通はアンセムのような男に特別誘われたり2人で仕事する機会があったりしたら、優越感を抱いて勘違いしたり、好きになっちゃったりするもんだけどな~。テラスは違うなぁ」

そして満足気に頷くのである。

「そういうもんですか」

「みんながみんなってわけじゃないけどなぁ。少なくとも、テラスにとって恋愛対象に外見はあまり関係なさそうだな」

「綺麗な人だから好きになれたら苦労しないですよ」

「おや?テラスは苦労してるのか?」

カイはテラスを見つめる。

「わからないことはいくら考えてもわかりませんけど、アイリとライキス見たいに、お互いを好きで、幸せになれたらいいなって思いますよ。
どうしたら、そうなれるかわからないですけど」

「ほう~。少しは成長したんだなぁ」

カイは少し驚いた。
今までのテラスだったら、こんな発言はなかったと思う。
第三寮生活で1年過ごして、いろいろと考えるようになったのだろう。

「成長ですかねー」

「入寮時に比べたら、著しい成長だな。まぁ、焦らずゆっくり探せばいい。人を好きになるのは、努力より縁だからな。
ただ、少しでも『違う』と思ったら、その気持ちに正直になるんだぞ」

「違うって、どういう意味ですか?」

テラスはカイの言葉の意味がよくわからない。

「僕は意地悪だけど、今回は特別教えてあげよう。
『違う』には2つ意味がある。
この男は他の男と違うと自分の心に感じるものがあれば、わからないと逃げずに何が違うか追求することだ。
そして、もし男と仲が進んでも、やっぱり違う、好きじゃないかもしれないと思ったら、その気持ちに正直になることだ」

テラスはカイの言葉を真剣に聞いた。
もう一度自分の心の中で反芻させる。

「なんか、カイさんすっごく良いこと言いました?」

「言ったぞ~。僕だって、寮生をいじめて喜んでるだけじゃない。たまにはためになること言うぞ」

にやりと笑うカイ。

「カイさん、ありがとうございます」

テラスは笑顔で感謝の気持ちを伝えた。

「恋愛のこと、やっぱりわからないけど、自分の気持ちにきちんと向き合いますね」

素直なテラスの回答に、カイは満足げにうなずいた。

「さて、テラスもそろそろ仕事に戻れ」

「ええーーーー!」

不満を露にするテラス。

「アンセム1人じゃ何日かかるか。棚卸し作業は最低2人以上必要なんだよ」

「なんか気まずいですよ」

今日はもう終わりでいいのでは、なんて思ってしまうテラスである。

「大丈夫。アンセムにとってキスもセックスも特別なことじゃない。
テラスに目撃されたのは想定外かもしれないが、アンセムは気にしてないから戻って一緒に仕事してやれ」

アンセムを正確に理解した発言である。

「………………はい」

テラスはしぶしぶと、本当にしぶしぶと戻るのだった。
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