超人気美男子に目を付けられた平凡女は平和な寮生活を求めて苦悩する

第38話 あざと女 VS 平凡女

ナミルは友達と遅い昼食をとりに食堂へ来たのだが、そこでテラスを見つけた。
1人で食事をとっている。
ナミルは一緒だった友達に断り、別行動させてもらうことにした。
そしてテラスに近く。

「こんにちは」

声をかけられ、テラスは顔を上げる。
誰だろう?見覚えがなかった。

「こんにちは」

一応挨拶は返す。

「私のこと覚えていませんか?」

「え~と…、ごめんなさい。わからないです」

「図書館でアンセムさんとキスしてた相手です」

言われて思い出すテラス。

「…ああ…」

「少しテラスさんとお話したいんですけど、いいですか?」

「はぁ…」

テラスは戸惑った。話とは何だろう。

「その前に、名前聞いていいですか?」

そして、もっともな質問をした。

「ナミルと言います。今年の入寮生です」

礼儀正しく頭を下げるナミル。
テラスも会釈で返した。

「それで、話って?」

テラスが促した。

「どうして、アンセムさんの好意を受けないんですか?」

いきなりストレートに聞かれて面食らうテラス。

「好意って?」

「アンセムさん、あなたのこと好きなんですよね?」

「はぁ…」

何が言いたいんだろう。

「嬉しくないんですか?女だったら、アンセムさんみたいな人に好かれたら、もう絶対嬉しいと思うんですけど」

「………」

ナミルの決め付けの意見に、テラスは辟易する。

「この前、私見ちゃったんですよね。
テラスさん、別の人とキスしてたでしょう?タキノリって人ですよね?」

テラスの相手については調査済みだった。

「見られてたんだ…」

誰もいないと思っていただけに、ショックだった。恥ずかしい。

「それって、アンセムさんじゃなくって、タキノリさんを好きってことですよね?」

テラスにとっては、今一番痛いところを突かれた。
無言になってしまうテラス。
カイからは早く気持ちを伝えるように言われたが、実はまだタキノリには何も言っていない。
というか、会ってもいない。
課題を理由に誘いを断り続け、3日間顔も見ていないのだった。

「違うんですか?っぱりアンセムさんが好きってことですか?」

矢継ぎ早に質問するナミル。

「なんで、そんなことを話さなければいけないの?」

テラスは静かに反発した。

「私がアンセムさんのことを好きだからです」

「どういう理屈?」

全然納得できない。
しかし、ナミルは構わずに続ける。

「あんなに素敵な人に好かれてるんですよ?本当は優越感とかあるんじゃないんですか?」

「どうして?」

真顔で聞かれてナミルは面食らった。

「どうしてって、私をバカにしてます?」

「なんでそう思うの?やっぱり、私が普通の人と違うのかな…」

力なく呟くテラス。

「私は、誰も好きじゃないの」

そして投げやりに言った。

「好きって気持ちがわからない。だから、ナミルさんの質問には答えられないの」

「はぁ!?」

ナミルは憤慨した。完全に馬鹿にされたと勘違いしている。

「話しになりませんね!」

そしてナミルはテラスに背を向け、食堂を出て行った。
会話から解放されても、テラスの気持ちはまったく晴れない。
言わなければならないとわかっていて、タキノリとの関係を先延ばしにしている自分にもうんざりしていた。
早く行動を起こさなければいけないのに、恐くてできない。
アンセムについても、真剣な気持ちを伝えられてなお、逃げることしかできない自分に苛立っていた。
課題は明日にでも終わってしまいそうだ。

-----------------------

(やっぱりムカつく女!!!)

ナミルは怒っていた。
あんなわけわかんない女のどこがいいのか。アンセムの人を見る目を疑ってしまう。
あまりにムカついて、そのまま図書館まで来てしまった。
空腹も手伝って、イライラは最高潮だった。
図書館に入ると、受付にはカイがいて、その横にいるアンセムに、何やら説明をしているところだった。

「聞いてくださいよ!」

ナミルはそんなこと構いもせず、ズカズカと2人の間に割って入り喋りだした。

「テラスさん、誰も好きじゃないんですって!」

唐突に始まった発表に、カイとアンセムはあっけにとられる。

「アンセムさんのことも、タキノリって人のことも、好きじゃないみたいですよっ」

カイとアンセムは無言で顔を見合わせた。
怒りのナミルは口が止まらない。

「いいんですか?アンセムさん。あの人、好きでもない男とキスするような女なんですよ。それでも、気持ち変わらないんですか?」

アンセムに詰め寄るナミル。
もう、どうにでもなれ。

「も本当に信じられない!何なんですかね、あのテラスって人は。
本当は全部わかってて、男を手玉にとるタイプだったりして」

「それはないよ」

アンセムは即否定した。
カイは面倒臭くて、目で「おまえに任せた」とアンセムに訴えている。

「なんで言い切れるんですか?女なんて笑顔の裏で何考えているか、みんなわからないんですから」

アンセムは苦笑した。

「ナミルはテラスと話したのか?」

「はい。前々から疑問でしたから。アンセムさんに好かれてるのに、好意を受け取らないってことに」

「話の内容はわからないけど、テラスは会話を偽るようなことはしないよ」

「ええ!?だって、好きな気持ちがわからない、とか言うんですよ。あの人。
絶対装ってるとしか思えない!」

アンセムは胸を打たれた。

「それは、テラスがずっと前から言っていることだよ」

「なにそれ!?作戦ですか?」

「ナミル」

カイに名を呼ばれてナミルはビックリした。初めて呼ばれたような気がする。
今までカイにどんなに話しかけても、のらりくらりとはぐらかされてばかりだったのに。

「テラスはそのことについて真剣に悩んでる。
色々な人がいるんだ。自分の枠にはまらないからと、無闇なことを言わない方がいいぞ」

静かだが重みのある言葉に、ナミルは勢いをくじかれた。
一方、アンセムはカイを見た。

(カイさん、テラスから何か聞いているんだ)

後で確かめるとして、今はナミルを落ち着かせなければ。

「ナミル、ありがとう」

「え…?」

いきなりアンセムにお礼を言われて、ナミルは面食らった。

「きっと、オレのために怒ってくれているんだよね」

「そ、そんなこと!」

「でも、オレはテラスが何を考えていても、今の気持ちは揺らがないんだ」

「どうしてそこまで想えるんですか?」

ナミルには理解できない。理解したくない。

「そうだな…。それが好きってことなんじゃないかな。理屈じゃないんだ」

しかし、そこまで言われたら、ナミルはもう何も意見できない。

「う~…!やっぱりテラスって人、ムカツク!」

アンセムに慕われるテラスが心底羨ましかった。
なぜ、アンセムの相手が自分ではないのか。
落ち込みそうになる自分を奮い立たせるかのように、ナミルは怒り続けた。

うんざりしながらそれを傍観するカイ。
アンセムは、そんなナミルを見て笑った。
ナミルとは、出会いの経緯が最悪だったし、自分も酷いことばかりしてしまったのに、正直な感情をぶつけてくれることが何となく嬉しい。
アンセムの中に、ナミルへ人としての好意が芽生えていた。
笑うアンセムを見て、カイはナミルに声をかける。

「良かったじゃないか。僕はうるさい奴は苦手だが、アンセムは随分と好意的になったみたいだぞ」

面白がっている。

「はぁ、そりゃどーも!」

ナミルはぞんざいに答えた。
< 38 / 72 >

この作品をシェア

pagetop