あなたの隣で生きていく
ノートに込められた気持ち
涙がこぼれ落ちそうになるのを我慢して俺は蛍に笑顔を見せた。
「蛍、こんにちは一馬です。会いにきたよ」
俺が手を差し出して握手を求めると蛍は体を縮こませてブルブルと震え出した。
「蛍、蛍?大丈夫?」
おばさんの呼びかけにも反応を示さず、だんだんと呼吸が乱れはじめた。
「先生!!」
過呼吸の発作だねと言って先生は蛍の背中を叩いたりさすったりしながら呼吸のリズムを整えてあげていた。俺はその様子を病室の隅から見守るしかなかった。蛍は過呼吸が落ち着くとそのまま眠ってしまった。
その後、俺はおばさんと担当医の先生と話をした。
「先ほど蛍さんが起こした過呼吸(過換気症候群)は精神的なストレスとか緊張とかが原因で息が速くなったりしてしまうんです。今の蛍さんは聞いてると思うけど記憶がないの。そのせいで過呼吸を起こしやすい状態になってる。一馬くんのことがわからないから咄嗟に怖いと思ってしまったのかもしれない。そろそろ家族以外の人との関わりをしてみようと思ったんだけど、まだ早かったみたいだね。申し訳ないけどしばらく面会は待っててもらえるかな。ごめんね」
俺は頷いた。先生からの話を聞いていたけど話が入ってこなかった。蛍に俺は避けられてる?なんで?どうして?そればかりが浮かんできた。
「一馬くんごめんね。こんなことになるなら一馬くんに伝えておけばよかったわね」
そう言って俺に6冊のノートとメモ帳を渡してきた。
「これは?」
中身をめくると蛍の日記みたいだった。俺との会話やクラスメイトのこと、勉強のことがたくさん書いてあった。俺が不思議そうな顔をしていたんだろう。
「座ろうか……」
おばさんに促されて待合室のソファーに腰掛けた。
「蛍が階段から落ちたの覚えてるでしょ?そのとき脳には異常は見つからなかったのに……寝て起きたらなぜか記憶がリセットされて高校2年生の春に戻ってしまう記憶障害になってしまった。それを半年間、誰にも言わないでって言われてずっと内緒にしていたの。蛍は一馬くんに目のことで負担や重荷をかけてるってよく言ってて蛍はね朝起きたらこのノートを読むの。昨日何があったのか自分が覚えていないことを知るために……でもそれは蛍にとって苦痛だったと思う。毎日の記憶を繋ぎ止めて生活してるなんて大変だったと思う。だから今、何もわからなくなってしまって私は辛いけど蛍は楽になったんじゃないかって思ってる。だってそうでしょ?記憶がないからって毎朝必死に頑張らなくてもいいんだもの」
そんなことがあったなんて全く知らなかった……そんな大変な思いをしてる姿なんて見せずにいつも明るかった。俺はそのノートをおばさんから借りてカバンにしまって家に帰った。俺の顔を見て怯えた顔をした蛍を見るのは初めてだった。守りたいずっとそばにいる。そう思っていた心が崩れ落ちそうになった。でも……蛍のノートを思い出してカバンから取り出した。
明日は漢字のテストがある。英語のテストがある。テストの範囲も記入されていた。そして……学校での様子、俺との会話、毎日たくさんのことをメモしていた。そして最後に蛍が書いた文字は涙で滲んでいた。
「一馬が由奈と一緒に歩いていた」
「一馬と由奈は付き合ってたの?」
「一馬がいなくなったら私は……」
どういうこと?俺が好きな人は蛍なのに……あの日は金子由奈に頼まれて先輩の誕生日プレゼントを一緒に買いに行っただけだ。その帰りに蛍に似た後ろ姿を見た気がしたけどあれは蛍だったんだ。俺たちが一緒に歩いてるのを見て付き合ってると勘違いしたんだ……そんな勘違いをしたまま倒れてしまうなんて、そんなの勘違いだって間違えだって俺の気持ちは蛍が好きだって伝えるのに。
「蛍、こんにちは一馬です。会いにきたよ」
俺が手を差し出して握手を求めると蛍は体を縮こませてブルブルと震え出した。
「蛍、蛍?大丈夫?」
おばさんの呼びかけにも反応を示さず、だんだんと呼吸が乱れはじめた。
「先生!!」
過呼吸の発作だねと言って先生は蛍の背中を叩いたりさすったりしながら呼吸のリズムを整えてあげていた。俺はその様子を病室の隅から見守るしかなかった。蛍は過呼吸が落ち着くとそのまま眠ってしまった。
その後、俺はおばさんと担当医の先生と話をした。
「先ほど蛍さんが起こした過呼吸(過換気症候群)は精神的なストレスとか緊張とかが原因で息が速くなったりしてしまうんです。今の蛍さんは聞いてると思うけど記憶がないの。そのせいで過呼吸を起こしやすい状態になってる。一馬くんのことがわからないから咄嗟に怖いと思ってしまったのかもしれない。そろそろ家族以外の人との関わりをしてみようと思ったんだけど、まだ早かったみたいだね。申し訳ないけどしばらく面会は待っててもらえるかな。ごめんね」
俺は頷いた。先生からの話を聞いていたけど話が入ってこなかった。蛍に俺は避けられてる?なんで?どうして?そればかりが浮かんできた。
「一馬くんごめんね。こんなことになるなら一馬くんに伝えておけばよかったわね」
そう言って俺に6冊のノートとメモ帳を渡してきた。
「これは?」
中身をめくると蛍の日記みたいだった。俺との会話やクラスメイトのこと、勉強のことがたくさん書いてあった。俺が不思議そうな顔をしていたんだろう。
「座ろうか……」
おばさんに促されて待合室のソファーに腰掛けた。
「蛍が階段から落ちたの覚えてるでしょ?そのとき脳には異常は見つからなかったのに……寝て起きたらなぜか記憶がリセットされて高校2年生の春に戻ってしまう記憶障害になってしまった。それを半年間、誰にも言わないでって言われてずっと内緒にしていたの。蛍は一馬くんに目のことで負担や重荷をかけてるってよく言ってて蛍はね朝起きたらこのノートを読むの。昨日何があったのか自分が覚えていないことを知るために……でもそれは蛍にとって苦痛だったと思う。毎日の記憶を繋ぎ止めて生活してるなんて大変だったと思う。だから今、何もわからなくなってしまって私は辛いけど蛍は楽になったんじゃないかって思ってる。だってそうでしょ?記憶がないからって毎朝必死に頑張らなくてもいいんだもの」
そんなことがあったなんて全く知らなかった……そんな大変な思いをしてる姿なんて見せずにいつも明るかった。俺はそのノートをおばさんから借りてカバンにしまって家に帰った。俺の顔を見て怯えた顔をした蛍を見るのは初めてだった。守りたいずっとそばにいる。そう思っていた心が崩れ落ちそうになった。でも……蛍のノートを思い出してカバンから取り出した。
明日は漢字のテストがある。英語のテストがある。テストの範囲も記入されていた。そして……学校での様子、俺との会話、毎日たくさんのことをメモしていた。そして最後に蛍が書いた文字は涙で滲んでいた。
「一馬が由奈と一緒に歩いていた」
「一馬と由奈は付き合ってたの?」
「一馬がいなくなったら私は……」
どういうこと?俺が好きな人は蛍なのに……あの日は金子由奈に頼まれて先輩の誕生日プレゼントを一緒に買いに行っただけだ。その帰りに蛍に似た後ろ姿を見た気がしたけどあれは蛍だったんだ。俺たちが一緒に歩いてるのを見て付き合ってると勘違いしたんだ……そんな勘違いをしたまま倒れてしまうなんて、そんなの勘違いだって間違えだって俺の気持ちは蛍が好きだって伝えるのに。