姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
 その時のジンガルドを思い出し、羞恥に襲われる。ベッドにバフンと横になり、バタバタと身悶える。
 そんなことを正面切って言われれば、いやでも意識してしまう。『お互いを知るところから』という私の提案をたしかに彼も了承したはず。それなのに、初日から距離の詰め方が尋常じゃない。
 それだけではない。とにかく、野獣皇帝の紳士度と献身がすさまじいのだ。食事に関して言えば、私のために手ずから料理を取り分けて飲み物を注ぎ、甲斐甲斐しくナプキンまで差し出してくる。
 席を立つ時には椅子を引き、廊下を歩くのですら手を取ってエスコートするのを譲らない。
 こんな展開は想定外で、どうしたらいいか分からない。
 庭では『夫婦としてやっていきたい』と言ってくれたし、実際に彼が初恋の延長で好意を寄せてくれているのも感じる。
 ただし、私は思うのだ。十二年の年月が、私を美化しすぎている。
 今の彼は、まるで熱に浮かされているようにも見える。
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