姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
 俺が咄嗟に呼び止めると、少女は少し迷うような素振りの後で答えた。
「……アンナ」
 たしかに同じ音を反復したはずなのに、彼女が発したものとはイントネーションが微妙に違うような気がした。
「あ、それとチョコレートをご馳走様! 久しぶりに食べられて嬉しかった。じゃあね、少年! なかなか大変そうな状況だけど強かに生き抜いてよ! 機会があればまた会いましょう」
 最後に俺を励ますように言い残し、アンナは今度こそ駆けて行ってしまった。
 もっと話したいことがたくさんあった。だけど、彼女はここの庭師の娘で。ここに来さえすれば、またいつでも会える。
 そう思い直して庭師小屋を後にした俺だったが、次に訪ねた時、そこには新たに就任した庭師だという男やもめがいた。男に娘はおらず、アンナという少女に心当たりもないという。
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