すべてはあの花のために④

 駅に到着すると、そこには険しい顔のキクが、車で迎えに来ていた。


「おいキク! なんでここに来てんだよ!」

「……大丈夫だチカ。今キサの父ちゃんと母ちゃんが付いてる」


 早く乗れと、キクはチカゼとキサを急かした。


「お前ら、ちゃんと足はあるのか」


 キクがそう言うや否や、暗闇からシントが現れる。


「大丈夫です朝倉様。俺が送り届けますので」

「は? 誰だ」

「葵お嬢様の執事でございます。……それよりもお急ぎなのでは?」


 任せて本当に大丈夫かと、キクから飛んでくる視線には慌てて頷いて答える。
 すると彼は「それじゃあ、後は頼んだから」と、焦った様子で車を走らせていった。


 残されたみんなからは、沈黙に混じって心配や不安が溢れてくる。


「(……でも今は、話せる状況じゃないから)」


 葵はみんなの方を振り返った。


「みんな。どうやらシントが送ってくれるみたいだから、今日は遅いし帰ろう?」


 みんなは後ろ髪を引かれながら、渋々頷いてくれた。
 そんな肩を落としているみんなの背を押し、葵たちは車に乗り込む。しばらくの間、車の中は葬式のように暗かった。


「……葵、何があったの」

「わたしも、わからないんだ」


 ツバサに尋ねられ、心苦しく思っていると。


「あ。オレはここでいいんで」


 こんな状況にもかかわらず、相変わらず単調的なヒナタに、流石のシントも驚いて聞き返した。


「え? 本当にここでいいの? だって家はまだ先でしょ?」

「いえ。オレの家はこっちなんでいいんです」


 車が停まると、ヒナタは「ありがとうございました」と、さっさと降りて帰って行った。
 再びみんなは心配を膨らませながら、歩いて行ったヒナタの背をずっと見送っていた。


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