すべてはあの花のために④
「あっ。だ、だめですよっ!」
彼の顔は、リンゴみたいに真っ赤になっていた。
「あー……もうだめだ。君を振り向かせるどころか、俺がどんどん好きになっちゃってる……」
ちょっ。独り言は聞こえないように言ってよ……!
「あ。もうこんな時間。……あおいさんは、学校間に合いそうですか?」
「あ。け、結構ギリギリです」
「ええ?! 大変! 早く行かないと!」
「で、でもあなたは?」
「俺は成績がいいので。授業に出なくても平気なんです」
「いえ、あの。学校には行ってください……」
葵にそう言われて「はっ! それもそうですね!」と笑っていた。
「あおいさん。よければ、連絡先を教えてもらっても?」
「ええ、構いませんけど」
不思議ちゃんに加えてマイペースも付け加えながら、連絡先を交換。グループの振り分けは、一応『友人』にしておいた。
「わあー! ありがとうございますっ!」
「いえ。こちらこそ」
「それじゃあ」と、駆け出そうとしたら、腕を取られてそのまま彼の胸の中へ逆戻り。
「よかったら今度、デートしませんか」
思わず体を硬くしてしまった葵に、慌てて「で、デートって言ってもただお茶とかお話ししたいだけなんですけど……」と、彼は付け加える。
「え、えーっと。……な、何もしません?」
「え?」
「あ! い、いえっ! し、しましょうデート!」
つい勢い余って、何故かやる気満々な返答に。
「そ、そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」
「ははっ。また、ついなんですね?」
彼はしゃがみ込んで大爆笑をしていた。
「ふう。……じゃあ今度、お誘いの連絡を入れますね?」
「は、はい。それじゃあ、お待ちしてます」
「うん! よろしくねあおいさん」
「はい。それじゃあ……また。アイくん」
葵はずっと手を振ってくれている彼を、時々振り返りながら、丘を下っていった。
「……あおいさん。必ず俺があなたを。あなた自身も、そしてあなたの心も。必ず……手に入れてみせますからね」
残った彼は、ふわりと花のように微笑んでいた。