婚約破棄されたので、契約母になります~子育て中の私は、策士な王子様に翻弄されっぱなしです~
「ルイト様っ!」
「フローラ!」

 そして、フローラの手がようやくルイトの体を捕まえた。

(よし! 間に合った!)

 その瞬間、もう一度大きく馬車が揺れる。

「あっ!」

 辛うじて椅子に捕まっていた手も離れてしまい、フローラはルイトを抱えたまま馬車から振り落とされた。

(この子だけでも守らないと!)

 必死でルイトを守るようにぎゅっと抱きしめたフローラは、そのまま地面に大きく叩きつけられた。
 その直後、馬車は近くの畑に突っ込んでそのまま止まった。

「フローラ様っ!」

 御者がフローラとルイトのもとへ走っていく。
 ゆっくりと目を開けたフローラは、両腕の中にいるルイトに声をかける。

「大丈夫、ですか……ルイト様……」
「ぼ、ぼくはだいじょうぶ。フローラ……」

 フローラは全身傷だらけだった。
 打ち身もひどく、腕や足から血が滲んでいる。
 寸でのところで馬車の速度が落ちていたことも幸いし、彼女が必死に守ったルイトは、傷一つなかった。

「よかった、です……」
「ごめんなさい! ぼくがおりるっていったから、いったから……フローラが……」
「大丈夫ですよ、ほら、動けます!」

 そう言ってフローラは立って手を上下に動かしながら、にっこりと笑ってみせた。

「うん……」

(本当はすごく痛い……でも、ルイト様が無事でよかった……)

 フローラは心からほっとして、ルイトの頭を撫でた──。
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