うしろの正面だーあれ



タケルの答えにニヤリと笑い、『じゃあね。』とだけ言って杏奈は帰っていった。



杏奈の背中を見つめながら、タケルは やはり後悔していた。



今までの出来事の中に、自分の本心は一切 無い。



全部、本音とは裏腹のことばかり言ってきた。



それは、愛する人を守る為であり、また、楓を危険から遠ざける為でもあった。



しかし、目に見えて 楓は傷付いていた。



自分の発した言葉で、楓は涙を見せた。



…いや、実際には涙を流してはいないのだが、確かに 楓の目には、今にも溢れそうな涙が溜っていたのだ。



そんな楓も愛しくて、タケルは 抱きしめてしまいそうな手を握り締めていた。



そんな楓も今は居ない。



もう抱き締めることも、名前を呼ぶことさえも許されないかもしれない。



俺の彼女は杏奈――…



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