すべてはあの花のために⑥

 葵は、今はトーマが少し解いてくれた腕を見る。別に、そんな運を上げたくて結んでもらったわけではないのだけれど。
 葵の左手には【青と白】が多かった。自分でチョコに結んだのだから当たり前だけど。


「今思えばすごいですね……」


 どうしよう。なんだか、妙な期待感が。


「葵ちゃん、悪い結婚しなさそうだね。きっと俺とだね!」

「そうだな。悪い虫はつかなさそうだ」


 そう、かな。……そう、思いたいな。



『オレはあんたのこと『許さない』』

『『話』とか、聞きたくもない』

『『友達』とかあいつらで十分。あんたなんかいらない』

『だってオレ、あんたのこと『嫌い』だから』


「(――! い。いやだっ……!!)」


『だからさっさと『消えて』くんない? あんたなんかいらない』


 今はもう、ないはずのリボンが重くのしかかる。


「(……左手のなんて、意味ないか)」


 よっぽど『右手にあったもの』が『左手にあったもの』の方が。


「(……明日、どんな顔して学校に行けば。生徒会室に行けばいいんだろう)」



 急に黙り込んだ葵に、キクはどうしたのかとバックミラーで確認するが、隣のトーマが肩に手を置いて首を振っていた。


「……いいのか? お前。完全にお前のこと眼中にないからさっきの発言スルーじゃねえか」

「それはちょっと悲しいけど。でも、今は葵ちゃんが一番つらい」

「……願いか」

「ああ。……今年は、閏年だから」

「そう、だな。……あいつらも、キツいな」

「葵ちゃん助けてやりてえ……」

「お前も言われたんだろ? 理事長に『願い』を」

「だから、葵ちゃんが言ってくれないと、俺は手が貸せない」


 悔しそうにトーマは自分の手を握り込む。


「……お前も、つらいな」

「取り敢えず、今日のお前の家はつらい」

「は? 大丈夫だって」

「そうだといいけど」


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