すべてはあの花のために⑥

 あっという間に葵の家に着いた。


「え。超デカッ」

「おーい。着いたぞ?」


 葵は何を考えていたのか、一瞬ぼーっとしていた。


「……あ。すみません! ありがとうございました!」


 そう言って葵は車から降りて、助手席のトーマの開いた窓から再度お礼を言う。


「先生? 遅くまで付き合っていただいてありがとうございました」

「いえいえ~」

「……?」

「それから、……桐生さんも。勉強を見てくださってありがとうございます」

「え? あおい、ちゃん……?」

「チョコありがとうな。美味かった」


 葵の言葉に目を見開いているトーマと、そう言ってくれたキクに、葵は微笑んで屋敷の中へと帰って行った。


「……どういうこと。菊」

「はい。自分で近づきましょう」

「え! ズルい! 何知ってんだよ!」

「オレはあいつの担任だからなー」

「っ、……ずっと居座ってやる」

「いや。それはやめてくれ」

「新居の契約は4月からにしようかな」

「飢えるわ」

「うっわ。菊がっつきすぎ。きっも」

「お前もそうなるさ」

「まあね。葵ちゃんに会ったらそうなる」

「取り敢えず早く新居見つけろよ。それまではちゃんといさせてやるから」

「さんきゅ菊」

「少しでも早く来て、あいつのそばにいたかったんだろ? ……受験もお疲れ。よく頑張ったな」

「……絶対に葵ちゃんを助けるよ、俺は。誰にも負けない。絶対に葵ちゃんを知るよ」

「ああ。ちゃんとわかってやれ」


 少し言い方を変えたことを、トーマは気がついただろうか。


「(こいつなら気がつくだろう。そのうちにでも)」


 キクはそう思って、車を走らせた。


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