すべてはあの花のために⑥
「ほーい。HR始めるぞー。席着け~」
「(あれ? ツバサくんは……)」
彼の席が空いている。案の定キクが、彼の名前を飛ばして出席をとっていく。どうしたのだろうかと思っていると、最後の方になったところで教室の扉が開いた。
ガラガラと、音を立てて入ってきたその人に、クラス中が息をのんだ。
「……九条ー。ぎりぎりだぞー」
「……すみません」
ツバサの顔には殴打の痕が見える。一応手当はされているようだが、それでも顔が大きく腫れていた。
「(……つばさ、くん……)」
葵が不安げにツバサの方を見ていると、ツバサと目が合った。
『大丈夫だ。心配するな』
痛いだろうに、彼は小さな笑顔を見せてくる。
これは……――もう、やるしかないでしょう!
「朝倉先生。生徒会メンバー抜けます」
「おー。りょーかいだー」
葵のその言葉で、みんなが立ち上がってツバサのところへ行く。
「え? 抜けるって……」
「連行します」
「へ?」
この間の葵と同様、デカいツバサを担ぎ上げ……否、葵がお姫様抱っこをして、ツバサを教室から生徒会室へと移動した。
「ちょっと待ってちょっと待ってー!!」
「待ちません。悪しからず」
「よかったわね~翼」
「羨ましい……」
「羨ましいの? てかアキ一回されてるからねー?」
「かなチャンもだけどねえー」
「「え」」
アキラは今知ったとばかりにビックリしたが、カナデは「やっぱりかー……」と頭を抱えていた。
「いやいや! 放っておかないでよ!」
「ツバサくん。うるさいと屋上から落としますよ」
「ッ、わかった! 運んでくれていいから落とすな!」
「そりゃ、プライドと命を天秤に掛けたらそうなるわね……」
「まだこの恰好なら許される気がする!」
「つばさクン。どの恰好でもダメだって……」
「気持ちの問題……!」
「「あ、そう……」」
その後ろでは、カナデが「俺が運ばれたのってやっぱりアオイちゃん歓迎会の時??」とアキラに尋ねて頷いていて、「俺はいつ運ばれたんだ??」と嬉しそうに何故か聞いてくるアキラに、「あ、熱海の時……」と、頭を抱えながらカナデは答えていた。
ちなみに、やっぱりツバサもそれなりに抵抗しておりました。一番大きくて力持ちのツバサでさえビクともしませんでしたが。