すべてはあの花のために⑥
正当防衛でボッコボコ
時刻は18時半。葵たちは電車に乗って、元来た道を帰ってきている。
「ツバサくんのお父様は、そんな気が荒い方ではないように思ったんですけど……」
「え? あーまあ、テレビ中継とかで暴れてたら厄介だろ。表面上は……ってやつ」
ツバサの父『九条 冬青』は、よくメディアに取り上げられているほどの著名人であり、とても聡明な国会議員だ。
彼になら任せられると言えるほど責任感が強く、義理堅い。彼ほど国民思いの議員はいない。そんな人が息子に手を上げるだなんて、未だに信じられないでいた。
「ああ見えて普通の父親だよ。まあ息子の俺でも最近は、ピリピリしてんなーと思うぐらいあの人の前では緊張するけど」
「……そう、ですか」
「普通にキレたらぶん殴ってくるよ。お前に殴りかかるようなら俺も容赦しないけど」
「大丈夫です。一回殴られたら正当防衛でボッコボコにできるので」
「そ、そうですか……」
そういえば最近見てないけど、こいつめちゃくちゃ強かったんだった、と思い出した。ついでにお姫様抱っこされたのも思い出してしまって、ツバサは顔を引き攣らせていたけれど。
「それはそうとツバサくん? わたし、こう見えてみんなの小さい頃の写真を集めるのが趣味なんですけど」
「え。何してんだよ……」
「まあそれは置いておいてですね? ……全員写真とかを見ても、みんなの写っている写真。そもそも“足りてなかった”と思うんです、人数が」
葵がもらった中の写真には、みんなが写っている写真はもちろんあった。けど、それにしても人数的に合わなかった。
「ツバサくんがオカマになったのって、いつ頃でしたっけ?」
「……陽菜が死んだのは、俺が小四の冬の時だから。中学ぐらいには完璧に変わってたか」
「徐々に変わられてたんです?」
「ああ。そうだな」
だったら、別居をし始めたのがそれぐらいと考えていいか。
「……あいつの痕跡は全部、母さんが消したんだ」
「え」
「うちから全部、母さんが日向と陽菜の写真とか思い出とか、別居する時に持って出た。だから、家には何にもあいつのものなんて残ってない。みんなの家にも行ったみたいで、あいつが写ってる写真は処分してた。他のものだって。……あいつのが、あいつの存在がなくなったんだ」
「ツバサくん……」
「だから、これだけはなんとか死守した」