すべてはあの花のために⑥
「……俺がわかってるのは、話せるのはここまで。日向の方は、あいつから聞いてくれ」
ぽんぽんと。ツバサが葵の頭を撫でる。
「葵。俺の背中を押して欲しい。父さんの中に、ちゃんと陽菜をいさせてやりたい。母さんの中に、ちゃんと日向をいさせてやりたいんだ。……頼む」
ツバサは、俯く葵の顔をそっと覗き込む。
「……そ、か。そうか。そうかっ」
「……葵?」
葵の顔が、苦しみにか、悔しさにか、それとも悲しみにか。似ているけれど、どれも違うような顔で歪んでいる。
「……はるなって、いうんだね」
「ん? ……ああ、そうだけど」
葵は、ピトっと墓石に手を当てる。
「……痛、かったね。しんどかったね。……助けてあげられなくて。ごめんね……っ」
「あおい……」
そして、今度は泣き出しそうな顔になっている葵の肩を、ぽんと叩く。
「少しだけ、妹さんとお話してもいい?」
「……うん。してやって?」
ツバサがそう言うと、葵はお墓の前にしゃがみ込み、手を合わせる。そんな葵の横にツバサも座り、ハルナと話をした。
「(陽菜ごめんな。兄ちゃん頑張れなかった。父さんも母さんも。俺の気持ち、届けらんなかった)」
でも、もう女の恰好はやめるよ。どうせ俺のこと、空の上で指差して笑ってたんだろ? 似合わねーってさ。
日向も、助けてやるよ。だって俺は、お前らの兄ちゃんだからな。
この姉ちゃんに、背中を押してもらってくるから。今度はお前のこと、二人にちゃんと思い出してもらったら報告に来るよ。
「(だから天国で見ててな? 兄ちゃん、もう一遍頑張ってくっから)」
言いたいことを言い終え、ツバサは視線を上げる。隣の葵は、まだハルナと話しているようだ。
「(なんでお前が、自分のことみたいにつらそうな顔すんだよ)」
葵の顔は、先程の複雑そうな顔で歪んでいた。
「(……お前も助けるよ。なんとしてでも)」
ツバサは、葵の話が終わるまで、ずっとそばについてあげていた。